

リハ栄養は、リハビリテーション栄養の略称です。単にリハビリテーション中の患者に栄養補助食品を追加することではなく、「リハビリテーションからみた栄養管理」と「栄養からみたリハビリテーション」を組み合わせる考え方を指します。栄養状態、筋肉の状態、疾患、生活背景を包括的に評価し、機能・活動・参加と生活の質を高めることが目的です。
member.jsdr.or(https://member.jsdr.or.jp/elearning3/lesson/1476/65/)
たとえば、歩行練習を増やす際には、それに見合うエネルギーやたんぱく質を摂取できているかを確認します。反対に、低栄養や食事摂取不足がある場合には、その状態を踏まえて運動の種類や負荷を調整します。このように、栄養処方とリハビリテーションの内容を相互に見直すことが基本です。栄養不足のまま運動負荷だけを増やすと、期待した機能改善が得られず、筋肉量の減少につながる可能性もあります。
meiji.co(https://www.meiji.co.jp/meiji-nutrition-info/pdf/science/info/nutrition_qa18.pdf)
評価の土台となるのが、国際生活機能分類であるICFの視点です。筋力や嚥下機能といった心身機能だけでなく、食事動作、歩行、家事などの活動、家庭や地域での役割といった参加にも目を向けます。「体重を増やす」という栄養上の目標を、「食卓で家族と食べる」「自宅内を移動する」といった生活上の目標に結び付けることが重要です。
member.jsdr.or(https://member.jsdr.or.jp/elearning3/lesson/1476/65/)
そのため、リハ栄養の中心は個別化にあります。必要な栄養量も実施できる運動も、炎症や基礎疾患、身体活動量、食べる能力によって異なります。栄養補給と運動を一律に組み合わせれば、すべての患者で同じ効果が得られるというものではありません。患者本人の希望と医学的な安全性を踏まえ、多職種で実行可能な計画に落とし込む必要があります。
member.jsdr.or(https://member.jsdr.or.jp/elearning3/lesson/1476/65/)
日本摂食嚥下リハビリテーション学会「リハビリテーション栄養」
リハ栄養では、「食事を何割食べたか」だけで栄養状態を判断しません。まず妥当性が確認されたスクリーニングツールで低栄養リスクを確認し、リスクがある患者には詳しい栄養評価を行います。低栄養の診断に用いるGLIM基準は、スクリーニングと診断を分けて考える枠組みです。
espen(https://www.espen.org/files/GLIM_criteria.pdf)
GLIM基準では、表現型基準に「意図しない体重減少」「低BMI」「筋肉量減少」、病因基準に「食事摂取量減少または消化吸収能低下」「疾患負荷または炎症」があります。低栄養の診断には、表現型と病因のそれぞれから少なくとも一つを満たすことが必要です。BMIだけ、あるいは食事摂取量だけで診断する仕組みではなく、重症度は表現型基準に基づいて判定します。
espen(https://www.espen.org/files/GLIM_criteria.pdf)
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 体重・BMI | 現在値に加え、意図しない体重減少とその期間を確認する | 体重減少と低BMIはGLIMの表現型基準に含まれる |
| 筋肉量 | 利用可能な測定方法と適切な基準で筋肉量減少を評価する | 筋肉量減少もGLIMの表現型基準である |
| 摂取量・消化吸収 | 食事摂取量が減っていないか、消化吸収を妨げる問題がないかを調べる | 低栄養の原因を探す病因評価に位置付けられる |
| 疾患負荷・炎症 | 急性疾患や慢性疾患に伴う負荷と炎症を確認する | 栄養不足を摂取量の問題だけに限定しない |
| 機能・活動・参加 | 筋力、食事動作、移動、生活上の役割などを把握する | GLIMによる診断とは別に、リハ栄養の目標設定に用いる |
表の栄養診断項目と生活機能の評価は、目的が異なります。低栄養の有無を判断することと、患者がどのような生活を取り戻したいかを把握することを分けたうえで、両者を介入計画につなげます。筋肉量の評価だけで食事動作や歩行能力まで判断せず、実際の活動も確認することが大切です。
member.jsdr.or(https://member.jsdr.or.jp/elearning3/lesson/1476/65/)
血清アルブミンの扱いにも注意が必要です。アルブミンやプレアルブミンは炎症の影響を受けるため、値が低いことだけで低栄養と診断したり、筋肉量や体たんぱく量を推定したりすることは適切ではありません。検査値は臨床経過の一部として読み取り、体重変化、摂取状況、身体組成、疾患の状態と併せて判断します。
pubmed.ncbi.nlm.nih(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33125793/)
GLIM基準:低栄養診断に関する国際コンセンサス
ASPEN:栄養評価におけるアルブミン・プレアルブミンの位置付け
評価を行っても、その結果が栄養処方や運動負荷に反映されなければ、実践にはつながりません。そこで有用なのが、リハビリテーション栄養ケアプロセスです。アセスメント・診断推論、診断、ゴール設定、介入、モニタリングの五段階を循環させ、状態の変化に応じて計画を修正します。
member.jsdr.or(https://member.jsdr.or.jp/elearning3/lesson/1476/65/)
これらは独立した作業ではありません。たとえば、「摂取量が不足している」という評価からは、単に提供量を増やすだけでなく、なぜ食べられないのかという診断推論が必要になります。食事内容の調整、食事介助、栄養相談、経口栄養補助などは選択肢ですが、どの方法が適するかは患者の状態によって異なります。
member.jsdr.or(https://member.jsdr.or.jp/elearning3/lesson/1476/65/)
実務では、栄養上の目標とリハビリテーション上の目標を同じ計画の中で共有すると、介入の方向性をそろえやすくなります。たとえば「体重と摂取量を改善する」という目標に、「食事動作の自立を目指す」という目標を組み合わせます。これは目標設定の例であり、実際には本人の希望、病態、予測される回復経過に応じて調整します。
member.jsdr.or(https://member.jsdr.or.jp/elearning3/lesson/1476/65/)
モニタリングでは、数値の変化を記録するだけでなく、目標とした活動が改善したかまで確認します。体重が変わっていても、食事や移動の状況が改善していなければ、介入の内容を再検討する余地があります。栄養面と機能面を一緒に振り返ることが、リハ栄養ケアプロセスを単なる記録様式に終わらせないための要点です。
member.jsdr.or(https://member.jsdr.or.jp/elearning3/lesson/1476/65/)
リハビリテーション栄養の基礎知識
必要栄養量を考える際には、体重当たりの目安が出発点になります。ESPENの高齢者栄養・水分管理の実践ガイドラインでは、エネルギー摂取量の指標を体重1kg当たり1日30kcalとし、栄養状態、身体活動量、疾患、忍容性に応じた調整を求めています。たんぱく質については体重1kg当たり1日少なくとも1gを目安とし、同様に個別調整するとしています。これらは高齢者を対象とした指標であり、すべてのリハ患者にそのまま適用する固定処方ではありません。
espen(https://www.espen.org/files/ESPEN-Guidelines/ESPEN_practical_guideline_Clinical_nutrition_and_hydration_in_geriatrics.pdf)
リハ栄養では、現在の体重を維持するのか、低栄養の改善に向けて増量を目指すのかによって計画が変わります。さらに、リハビリテーションや日常活動による消費も考慮します。計算上の必要量を決めて終わるのではなく、実際の摂取量、身体の反応、活動状況を確認しながら修正することが重要です。
member.jsdr.or(https://member.jsdr.or.jp/elearning3/lesson/1476/65/)
経口摂取を支える方法には、食事内容や形態の調整、食事介助、栄養相談、経口栄養補助食品の活用などがあります。経口摂取だけで不足する場合には経腸栄養を、経腸栄養でも不十分または実施できない場合には静脈栄養を検討します。ただし、投与経路の選択は不足量だけで決めるのではなく、全体的な予後も含めて個別に判断します。
pubmed.ncbi.nlm.nih(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35306388/)
重度の低栄養がある患者では、栄養投与の増量時にリフィーディング症候群への注意が必要です。ESPENの高齢者向けガイドラインは、低栄養患者への経腸栄養・静脈栄養を段階的に増やすこと、開始後の初期にはリン、マグネシウム、カリウム、チアミンに注意することを示しています。「不足していた分を早く補う」という発想だけで急増量せず、医師の管理下で補正と監視を組み合わせます。
espen(https://www.espen.org/files/ESPEN-Guidelines/ESPEN_practical_guideline_Clinical_nutrition_and_hydration_in_geriatrics.pdf)
また、栄養が不足しているからといって、すべてのリハビリテーションを一律に中止する考え方も適切ではありません。栄養状態を踏まえて実施内容や負荷を調整し、栄養改善と機能維持・改善を同時に考えます。重要なのは、栄養量と運動量のどちらか一方だけを増やすのではなく、病態と反応に合わせて両者の釣り合いを見直すことです。
member.jsdr.or(https://member.jsdr.or.jp/elearning3/lesson/1476/65/)
ESPEN実践ガイドライン:高齢者の臨床栄養と水分管理
リハ栄養は、管理栄養士やリハビリテーション専門職だけで完結するものではありません。栄養、疾患、身体機能、生活背景を同時に扱うため、多職種が評価と目標を共有し、それぞれの介入を調整する必要があります。高齢者の栄養介入についても、包括的かつ多面的なチームアプローチが推奨されています。
member.jsdr.or(https://member.jsdr.or.jp/elearning3/lesson/1476/65/)
役割分担の実務例としては、医師が病態と安全性、管理栄養士が必要栄養量と摂取内容、看護師が日々の摂取状況と生活上の変化、リハビリテーション専門職が機能評価と活動負荷を担当する方法が考えられます。ただし、担当を固定して情報を分断するのではなく、食べる能力や活動状況の変化を互いに伝え、同じゴールに向けて介入を修正することが大切です。
member.jsdr.or(https://member.jsdr.or.jp/elearning3/lesson/1476/65/)
厚生労働省の資料でも、リハビリテーションの負荷や活動量に応じて必要なエネルギー量と栄養素を調整することが、筋力・持久力の向上や日常生活動作の維持・改善に重要とされています。また、リハビリテーション、栄養、口腔の問題は相互に関係するため、食べる機能への対応も含めて考える必要があります。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001173501.pdf)
現場での共有様式には、「現在の栄養上の問題」「食べられない原因」「実際の摂取状況」「運動・活動の内容」「本人が望む生活」「次に確認する項目」を並べる方法が考えられます。こうした形式は、リハ栄養ケアプロセスの評価、診断、目標、介入、モニタリングをつなげるための実務上の工夫です。職種ごとの記録を増やすことより、情報が次の判断に使われることを重視します。
member.jsdr.or(https://member.jsdr.or.jp/elearning3/lesson/1476/65/)
退院後や生活の場でも続けられる計画にするには、入院中に達成できることだけでなく、本人が実行できる食事や活動を考える必要があります。リハ栄養の目標は、栄養指標を整えること自体ではなく、その改善を生活機能と生活の質につなげることです。評価と介入を繰り返し、栄養管理とリハビリテーションを切り離さない姿勢が、継続的なケアの基盤になります。
member.jsdr.or(https://member.jsdr.or.jp/elearning3/lesson/1476/65/)
厚生労働省:リハビリテーション・栄養・口腔に関する資料