

2020年の欧州放射線腫瘍学会(ESTRO)と米国放射線腫瘍学会(ASTRO)のコンセンサスでは、放射線治療の観点から、転移病変が一〜五個で、すべての転移部位に安全な治療を実施できることが実務的な定義として示されています。一方、この個数は生物学的に確立された境界ではなく、利用可能な臨床研究と治療実施可能性に基づく目安です。原発巣が制御されていることも、概念上の一律の必須条件ではありません。
参考)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
ESTRO・ASTROコンセンサス:放射線腫瘍学の観点からみたオリゴ転移の定義
オリゴ転移を理解するときは、現在の画像所見だけでなく、そこに至った経過を確認する必要があります。ESTROと欧州がん研究治療機構(EORTC)が2020年に示した分類では、過去の多発転移の有無、オリゴ転移の既往、原発診断との時間的関係、全身療法の実施状況、画像上の増悪の有無などを組み合わせて病態を整理します。以下の用語はそれぞれ分類の異なる軸を表すため、完全に相互排他的な区分ではありません。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 同時性オリゴ転移 | 原発がんの診断と近い時期に少数転移を認める病態 | 原発巣と転移巣を含む治療戦略を検討する |
| 異時性オリゴ転移 | 原発がんの診断から時間を置いて少数転移を認める病態 | 出現までの経過や過去の治療反応を確認する |
| オリゴ再発 | 全身療法を実施していない期間に少数病変として再発する状態 | 局所治療の目的と全身療法の必要性を検討する |
| オリゴ増悪 | 全身療法中に限られた病変で増悪を認める状態 | 病変総数が少ない状態とは区別して評価する |
| オリゴ残存 | 全身療法中に少数病変が残存し、それらに増悪を認めない状態 | 増悪病変への治療とは目的が異なる |
| 誘導型オリゴ転移 | 多発転移の既往があり、治療後などに少数病変の状態となった病態 | 当初から少数転移だった病態と区別する |
特に混同しやすいのが、オリゴ転移とオリゴ増悪です。オリゴ増悪では、全身療法で多くの病変が制御されている一方、一部だけが増悪している場合があります。この場合の検討課題は、すべての腫瘍を局所治療で消失させることだけでなく、増悪部位を制御しながら現在の全身療法を継続する戦略が妥当かどうかです。これに対し、治療のない期間に生じた少数再発では、局所治療と全身療法の開始・追加をどう組み合わせるかという別の判断になります。
ESTRO・EORTCコンセンサス:オリゴ転移の特徴づけと分類
オリゴ転移の評価では、「見つかった病変が少ない」ことと「全身を十分に評価したうえで病変が少ない」ことを区別する必要があります。画像評価では、病変の位置、体積、個数に加えて、過去画像があれば増大速度や新規病変の出現も確認します。2023年のASTRO・ESTROによる非小細胞肺がんのガイドラインでは、適切な病期評価と、転移病変の病理学的確認の重要性が示されています。
参考)ASTRO, ESTRO Release First Gui…
非小細胞肺がんに関する2023年のガイドラインでは、根治的な局所治療の統合は、頭蓋外の遠隔転移が五個以下で、すべての対象部位に技術的かつ安全に治療できる患者を前提としています。ただし、これは非小細胞肺がんの頭蓋外病変に関する指針です。そのまま他のがん種や脳転移に適用できる普遍的な基準ではありません。
参考)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
さらに、オリゴ転移を生物学的に確定する、十分に検証された分子バイオマーカーは、2020年の定義コンセンサスでは確立していませんでした。このため、病変数や画像所見は患者選択の重要な手がかりである一方、将来の広範な進展を完全に予測するものではありません。診断時の呼称だけで治療を固定せず、経時的な画像と治療反応に応じて病態を再評価する姿勢が必要です。
ASTRO・ESTRO診療ガイドライン:オリゴ転移性非小細胞肺がんの治療
オリゴ転移に対する局所治療には、手術、定位放射線治療、その他の局所焼灼療法などがあります。定位放射線治療は、体幹部ではSBRT、腫瘍に対する高い局所効果を意図した表現ではSABRと呼ばれることがあります。重要なのは、特定の治療法を一律に優先するのではなく、病変の部位や安全性を踏まえ、原発巣・転移巣・全身療法を含む治療全体の中で位置づけることです。
参考)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
非小細胞肺がんのASTRO・ESTROガイドラインは、選択された同時性、異時性、少数残存、少数増悪の病態について、標準的な全身療法に根治的局所治療を追加することを条件付きで推奨しています。「条件付き」という表現は、病変数の基準を満たすすべての患者で利益が確立しているという意味ではありません。対象病態、全身療法の内容、治療負担を踏まえた個別判断が前提です。
治療目標も明確に分ける必要があります。すべての既知病変を対象に長期制御を目指す治療と、少数の増悪病変を制御する治療では、治療対象や成功の評価が異なります。また、疼痛などの症状を軽減する目的の照射と、長期的な病勢制御を意図する局所治療も、同じ放射線治療という言葉だけでは区別できません。治療の目的、対象病変、全身療法との関係を患者と医療者の双方で共有することが重要です。
オリゴ転移に対する局所治療の代表的な研究が、ランダム化第II相試験のSABR-COMETです。原発巣が制御され、一〜五個の転移病変すべてにSABRが可能な患者を対象とし、標準治療にSABRを追加する戦略を検討しました。長期追跡報告では、五年全生存率は標準治療群17.7%、SABR追加群42.3%で、局所治療の追加による生存改善の可能性が示されました。
ただし、この数値を「オリゴ転移患者の五年生存率」として一般的に提示するのは不正確です。SABR-COMETは、原発巣の制御や全転移病変への照射可能性などを満たした、選択された患者の試験です。また、複数のがん種を含む第II相試験であり、個々のがん種、現在の薬物療法、異なる臨床条件に対して同じ効果量を保証する結果ではありません。
SABR-COMET試験:ランダム化第II相試験の長期追跡結果
一方、非小細胞肺がんを対象としたNRG-LU002の2024年の学会抄録では、異なる結果が報告されています。この試験では、初回全身療法四サイクル後に少なくとも病勢安定を示し、原発巣を除く頭蓋外転移が三部位以下の患者を対象に、維持全身療法単独と、局所地固め療法を追加してから維持全身療法を行う戦略を比較しました。局所地固め療法には放射線治療や手術が含まれます。
参考)https://ascopubs.org/doi/10.1200/JCO.2024.42.16_suppl.8506
同報告の無増悪生存期間のハザード比は0.93、95%信頼区間は0.66〜1.31で、統計学的に有意な改善は確認されませんでした。免疫療法を含む治療を受けた患者群でも、無増悪生存期間のハザード比は0.90、95%信頼区間は0.61〜1.32でした。また、治療関連と判定されたグレード三以上の肺臓炎は、維持全身療法単独群の1%に対し、局所治療追加群で10%と報告されています。これらは2024年の学会抄録に基づく数値として解釈する必要があります。
NRG-LU002試験:局所地固め療法の追加を検討した2024年学会抄録

月刊インナービジョン2025年11月号 Vol.40, No.11−Radiation Therapy Today 2025 定位放射線治療の現状と未来 / Trends in Nuclear Medicine 2025 核医学の現在地と未来