


「尿素呼吸 試験とは」と検索される検査の正式な名称は、尿素呼気試験です。英語ではUrea Breath Testといい、UBTと略されます。尿素を服用する前後の呼気を採取し、ヘリコバクター・ピロリ、いわゆるピロリ菌の存在を調べる検査です。ユービット錠100mgの効能・効果は「ヘリコバクター・ピロリの感染診断」であり、除菌前の感染診断だけでなく、除菌後の感染診断にも使用されます。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00049241.pdf
検査の中心となるのは、ピロリ菌が持つウレアーゼという酵素です。安定同位体である炭素13で標識した尿素を経口投与すると、胃内にピロリ菌が存在する場合、そのウレアーゼによって尿素が炭素13を含む二酸化炭素とアンモニアに分解されます。二酸化炭素は血中へ移行した後、肺から呼気中に排出されます。服用前後で呼気中の炭素13を含む二酸化炭素がどの程度増加したかを測定することで、感染の有無を判定します。
この検査は、患者の免疫応答を調べる抗体検査とは異なり、胃内のウレアーゼ活性を利用してピロリ菌の存在を検出する方法です。呼気を検体とするため、検査そのものに採血や胃粘膜の生検は必要ありません。ただし、内視鏡検査とは役割が異なります。尿素呼気試験で分かるのは感染診断に関する情報であり、胃粘膜の形態や病変を直接観察する検査ではありません。
ユービット錠100mgの国内第Ⅲ相試験では、感染者130例と非感染者124例を対象とした評価で、感度97.7%、特異度98.4%、正診率98.0%が示されました。ただし、これらは所定の投与量、呼気採取時間、カットオフ値などの条件で得られた成績です。日常診療のすべての患者で同じ精度を保証する数値ではなく、服薬状況、胃切除歴、採取条件などを確認して解釈する必要があります。
以下は、成人にユービット錠100mgを使用する場合の標準的な手順です。他の製剤や測定システムに、そのまま適用するものではありません。実施時には、使用する製剤の最新の電子添文、呼気採取器具の説明書、測定機器の取扱手順を確認してください。ユービット錠の標準法では、服用前の呼気採取、空腹時の服用、服用後の体位管理、20分後の呼気採取という順序を守ります。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 検査前の呼気採取 | ユービット錠服用前に呼気を採取する | 服用後の測定値との比較に使用する |
| 投与量 | 通常、成人には尿素13Cとして100mgを投与する | ユービット錠100mgを1錠使用する |
| 服用条件 | 空腹時に水100mLとともに服用する | 錠剤をつぶさず、噛まずに5秒以内に嚥下する |
| 服用後の体位 | 左側臥位を5分間保ち、その後は座位を保つ | 服用時刻と体位変更時刻を管理する |
| 服用後の呼気採取 | 服用後20分に採取する | 服用前と服用後の検体を区別する |
| 陽性の判定基準 | 服用後20分のΔ13Cが2.5‰以上 | ユービット錠100mgの標準法における基準 |
| 測定方法 | 質量分析法、または同等の性能を持つ赤外分光法など | 検体の二酸化炭素濃度にも注意する |
表の投与方法、採取時間、判定基準は、ユービット錠100mgの添付文書に基づきます。Δ13Cは、服用前と服用後の呼気中の炭素13を含む二酸化炭素の比率の変化を表す値です。単位の「‰」はパーミルであり、「%」とは異なります。検査結果の転記や患者説明では、数値だけでなく単位まで確認することが重要です。
陽性の基準を超えていても、Δ13Cの値が高いほど菌が多い、症状が強い、病変が重いと判断することはできません。添付文書では、胃内のピロリ菌の菌体数とΔ13C値の相関は確立していないとされています。この検査値は、主に感染の有無を判断するための情報として扱い、菌量や病状の程度に直接置き換えないようにします。
また、呼気中の二酸化炭素濃度が1%未満の場合、Δ13C値の再現性が乏しくなることがあり、低値領域の判定に影響する可能性があります。採取が不十分だった検体や、採取器具の操作に問題が疑われる検体では、測定値だけで結論を出さず、測定担当者と検体の適否を確認します。20分という時間は服用から再採取までの間隔であり、受付、事前確認、測定、説明を含めた総所要時間とは区別して案内する必要があります。
尿素呼気試験を正確に実施するうえで、特に重要なのが休薬の確認です。ピロリ菌に静菌作用や抗菌作用を持つ薬剤、あるいはウレアーゼ活性に影響する薬剤を服用していると、感染が残っていても陰性になる可能性があります。患者には「胃薬を飲んでいますか」だけでなく、薬剤名、最終服用日、最近使用した抗菌薬、他院の処方薬まで確認します。
参考)PPI内服中の感染診断に関する厚生労働省保険局医療課の疑義解…
参考)https://kyoudou-hp.com/DInews/2025/672.pdf
休薬期間を説明する際には、資料ごとの記載を混同しないことも必要です。ユービット錠の添付文書は、対象となる静菌作用を有する薬剤の投与中止または終了後に2週間以上経過していることを求め、除菌判定については別に4週以降と定めています。一方、前述のガイドラインを引用した院内資料では、抗菌薬について4週間以上の間隔を設けています。「影響する薬はすべて2週間止めればよい」と一律に説明せず、薬剤の種類と検査目的を分けて確認します。
例えば、除菌治療が終了して5週間経過していても、その後にPPIを継続し、検査の3日前まで服用していた患者では、除菌終了からの間隔だけを見て検査条件が整ったとは判断できません。除菌薬の終了日と胃酸分泌抑制薬の最終服用日を別々に確認する必要があります。別の感染症で抗菌薬を使用した場合も、除菌治療とは無関係だから影響しないと考えず、検査日程を見直します。
ただし、休薬は患者が自己判断で行うものではありません。胃酸分泌抑制薬が必要な背景疾患や症状を確認し、処方医が中止の可否、代替方法、検査延期を判断します。日本ヘリコバクター学会の2024年11月の案内では、鏡検法、培養法、抗体測定、糞便中抗原測定、核酸増幅法については、PPI内服のままでも保険診療で実施できるとされています。休薬が困難な場合には、検査の目的と各方法の限界を踏まえて代替検査を検討します。
日本ヘリコバクター学会:PPI内服中の感染診断に関する案内
埼玉協同病院薬剤科:ピロリ菌感染の診断・判定に関する資料
尿素呼気試験は高い診断性能を持つ一方、陰性結果だけで感染を完全に否定できる検査ではありません。ユービット錠の国内第Ⅲ相試験でも、感染者130例中3例、約2.3%で偽陰性が生じています。添付文書では、臨床症状から感染が示唆される場合、別の検査法による判定結果を参考にするよう求めています。薬剤の影響や採取条件に問題がある陰性結果を、そのまま「未感染」や「除菌成功」と扱わないことが重要です。
偽陰性の原因としては、PPIや抗菌薬などの服用に加え、胃切除後の条件も挙げられます。胃切除を受けた患者では、錠剤が胃内に十分停滞せずに通過したり、溶解が遅れて呼気反応が遅れたりすることで、陰性と判定される可能性があります。検査依頼時には手術歴を共有し、標準的な錠剤法で得られた結果の解釈に制約がないかを確認します。
偽陽性の原因として注意したいのが、錠剤の口腔内での崩壊です。ユービット錠を噛む、つぶす、口の中に長く保持すると、ウレアーゼ活性を持つ口腔内常在菌の影響を受け、陽性と判定される可能性があります。嚥下しにくい患者に対し、通常の内服薬と同じ感覚で粉砕して投与することは避け、実施可能な検査方法を医師や薬剤師と検討する必要があります。
また、無酸症の患者や、Helicobacter heilmanniiなどのウレアーゼ活性を持つ細菌が胃内に生息する患者でも、陽性と判定される可能性があります。尿素呼気試験はウレアーゼ活性を測る検査であるという原理を理解すると、ピロリ菌以外の要因で陽性反応が生じ得る理由も整理できます。内視鏡所見や他の検査結果と矛盾する場合には、結果を機械的に採用せず、背景条件を再評価します。
カットオフ値付近の結果については、わずかな差だけで結論を急がない姿勢が求められます。埼玉協同病院の資料では、除菌判定でカットオフ値周辺の結果が得られた場合、偽陽性の可能性を考慮し、2~3カ月以上の間隔をあけた再検が推奨されると記載されています。ただし、境界域の具体的な扱いは使用する検査法や施設の手順に従い、適切な条件での再検査や便中抗原検査などを検討します。
患者への説明では、「ピロリ菌が持つ酵素を利用して、薬を飲む前後の息を調べる検査です」と伝えると、検査の目的と流れを簡潔に説明できます。炭素13は安定同位体であり、放射性同位体ではありません。ただし、放射線による検査ではないことと、すべての患者に無条件で投与できることは別です。製剤の注意事項を確認したうえで説明します。
ユービット錠の添付文書では、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は、診断上の有益性が危険性を上回ると判断される場合に限るとされています。授乳婦では、診断上の有益性と母乳栄養の有益性を考慮し、授乳継続または中止を検討します。また、小児等を対象とした臨床試験は実施されていません。成人の用量や標準手順を、年齢や背景を確認せずに適用しないことが大切です。
検査前の案内には、食事の制限、当日の飲水、内服薬の扱い、検査の流れを記載します。添付文書が定める条件は「空腹時」であるため、具体的な絶食開始時刻は施設の標準手順に沿って明示します。「空腹で来院してください」という表現だけで患者任せにせず、食事を終える時刻と当日の服薬について分かる形で案内し、来院時に実際の摂取状況を確認します。
検査室では、患者識別、服用前後の呼気バッグの区別、服用時刻、体位保持、20分後の採取時刻を一連の記録として管理します。特に、服用前の採取を忘れると標準法の比較ができなくなるため、投与前に検体採取が完了していることを確認します。錠剤は包装開封後に速やかに使用することが添付文書に定められており、投与準備から実際の服用までの手順も統一しておくとよいでしょう。
副作用として、発疹、蕁麻疹、腹部膨満感、下痢、心窩部不快感などが記載され、悪心や嘔吐は頻度不明とされています。服用後の異常を観察し、嘔吐や服用不成立が起きた場合は、そのまま通常の結果として解釈せず、医師と測定担当者に状況を共有します。追加投与や再検査の要否は、その場の判断で一律に決めず、製剤の情報と施設の手順に沿って対応します。
結果説明でも、「陰性だった」という数値上の判定と、「適切な条件で感染が検出されなかった」という臨床的な解釈を分ける必要があります。検査時点の休薬状況、除菌終了からの期間、投与・採取の成立状況を記録し、必要に応じて再評価できるようにします。尿素呼気試験を信頼できる感染診断につなげるには、測定値だけでなく、その値が得られた条件まで医師、看護師、薬剤師、検査担当者で共有することが重要です。
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