

「ナンダの看護診断」とは、一般にNANDA-Iの看護診断分類を用いて、患者の健康状態や生活過程に対する反応を臨床的に判断することを指します。看護診断の対象は、病気そのものだけではありません。患者が感じる苦痛、生活上の困難、健康問題を生じるリスク、健康をよりよくするための意欲などを捉え、必要な看護を明確にします。公式サイトでは、現在の組織をINKA、旧名称をNANDA International、NANDA-Iと説明していますが、日本語の診断分類書は「NANDA-I看護診断」の名称で刊行されています。
参考)Nursing Assessments - NANDA
医学診断と看護診断の違いは、着目する対象にあります。医学診断が疾患や病態の特定を中心とするのに対し、看護診断は、その健康状態に対して人がどのように反応しているかに焦点を当てます。例えば、同じ病気で入院した患者でも、活動時のつらさが強い人、治療後の生活に不安を抱く人、退院後の自己管理を学びたい人では、看護で取り組む課題が異なります。病名から診断名を機械的に割り当てるのではなく、その人の訴えと観察結果を基に判断することが重要です。
2026年10月時点で公式サイトが現行版として案内しているのは、2024–2026年版の原書第13版です。日本語版『NANDA-I看護診断 定義と分類 2024-2026 原書第13版』は医学書院から2025年2月に発行されています。この版には277の看護診断が掲載され、56の診断が新たに追加され、123の診断が改訂されています。新規追加数を旧版の総数に単純加算して診断数を求めたり、異なる版の一覧を混在させたりしないようにしましょう。
参考)NANDA-I看護診断 定義と分類 2024-2026 原書…
医学書院:NANDA-I看護診断 定義と分類 2024-2026 原書第13版
分類は、ヘルスプロモーション、栄養、排泄と交換、活動/休息、知覚/認知、自己知覚、役割関係、セクシュアリティ、コーピング/ストレス耐性、生命原理、安全/防御、安楽、成長/発達の13領域で構成されています。ただし、領域は看護に関する概念を体系的に整理するためのものであり、その順番どおりに問診すれば診断が確定するという意味ではありません。
ナンダの看護診断を理解する際は、現在存在する問題を捉える診断と、まだ発生していない問題への脆弱性を捉える診断を区別することが出発点です。さらに、健康を高めようとする準備性や、まとまって生じる複数の看護診断を扱う考え方もあります。すべての種類に同じ根拠や記載形式を当てはめるのではなく、診断の性質に応じて必要な情報を確認します。
参考)2026 Nursing Diagnosis Guide
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 問題焦点型看護診断 | 現在存在する望ましくない人間の反応を判断する。 | 診断の定義、診断指標、関連因子と患者の情報を照合する。 |
| リスク型看護診断 | 望ましくない反応を今後生じる脆弱性を判断する。 | すでに生じた症状ではなく、危険因子を根拠として検討する。 |
| ヘルスプロモーション型看護診断 | 健康や安寧をより高めようとする意欲・準備性を判断する。 | 問題の有無だけでなく、本人の希望や健康行動を高める意思を確認する。 |
| シンドロームに関する診断 | 一緒に生じ、同様の介入によって扱うことが適切な看護診断のまとまりを判断する。 | 複数の問題があるという理由だけで選ばず、該当する診断の定義を確認する。 |
上表は、診断の種類の違いを理解するための説明です。個別の診断を確定する際は、分類書に示された定義と指標を確認してください。とりわけリスク型では、対象となる問題が発生していない段階でも、危険因子があれば予防的な看護が必要になります。一方、ヘルスプロモーション型は「問題がないから選ぶ診断」ではなく、健康状態や健康行動をさらに高める準備性を捉える診断です。
構成要素も混同しないことが大切です。診断名は判断する概念の名称、定義はその概念が意味する内容です。診断指標は判断を支える患者の訴えや観察可能な徴候などを示し、関連因子は問題の成立に関係する要因を、危険因子は問題を生じやすくする要因を示します。「診断名が似ている」という理由だけで決めず、定義と根拠となる情報の対応を確かめる必要があります。
また、「高齢だから」「術後だから」といった背景だけで診断を確定するのは適切ではありません。その背景を持つ患者に、実際にどのような反応や危険因子があるのかを評価します。分類書に関連する病態や対象集団などが記載されている場合も、それらと関連因子・危険因子を区別して読み、患者の情報に基づく判断につなげます。
ナンダの看護診断では、診断一覧から当てはまりそうな名称を探す前に、患者の情報を収集・解釈します。公式の解説は、情報収集、情報のまとまりの把握、診断仮説の生成、仮説の確認または否定という過程を示しています。この過程は一方向ではなく、候補を検討する中で不足する情報が見つかれば、再び患者への質問や観察に戻ります。
情報整理の枠組みとして、ゴードンの機能的健康パターンが活用できます。これは健康知覚・健康管理、栄養、排泄、活動・運動などの11パターンで患者情報を整理する枠組みです。NANDA-Iの13領域とは、目的と分類数が異なります。「11パターンは情報を整理する枠組み」「13領域は看護診断分類の構造」と区別すると、アセスメントと診断分類を混同しにくくなります。
例えば、患者から「動くとつらいのでトイレへ行くのを控えている」という訴えがあった場合、活動に関する診断を直ちに確定するのではなく、つらさの内容、発生する場面、休息による変化、実際の活動状況などを追加評価します。そのうえで、集まった情報がどの診断の定義に最も合うかを比較します。この例は臨床推論の進め方を説明するものであり、特定の診断の成立を示す症例ではありません。
優先順位についても、「現在ある問題は必ずリスクより優先する」と固定しないことが重要です。公式解説では、差し迫った害を表すリスク型診断が最優先になる場合があるとされています。分類の種類ではなく、緊急性と予測される影響に基づいて判断します。状態変化への対応が必要な場面では、診断名を整えることよりも、必要な評価・報告・対応を優先する考え方が求められます。
看護診断の書き方を学ぶ際には、PES形式がよく用いられます。PはProblemで診断する問題、EはEtiologyでその問題に関連する要因、SはSigns and Symptomsで判断を支える徴候・症状を表します。「何が問題か」「何に関連するか」「何を根拠として判断したか」をつなげることで、診断に至った思考を説明しやすくする形式です。
問題焦点型の学習用の記述は、「Pという問題が、Eという要因に関連し、Sという情報によって裏付けられる」という構造で整理できます。ただし、EとSを取り違えないようにします。例えば、問題を成立させる要因についての説明と、その問題が存在すると判断した観察事実は役割が異なります。実際の記載では、正式な診断名と、その診断に適合する関連因子・診断指標を分類書で確認してください。
リスク型に問題焦点型のPESをそのまま当てはめることはできません。リスク型は、対象となる望ましくない反応がまだ生じていない段階の判断です。そのため、発生済みの徴候や症状を無理に付け加えるのではなく、危険因子を根拠として説明します。対象とする反応がすでに存在する可能性があるなら、リスク型を選ぶ前に、現在の問題として評価すべきかを再検討します。
ここで押さえておきたいのは、根拠を明確にすることと、三部構成の文章を必ず書くことは同じではないという点です。公式解説では、三部構成は教育目的で臨床推論を示すために有用とする一方、臨床記録で必須とはしていません。診断を裏付ける情報がアセスメント記録で確認できるなら、看護計画には診断名を記載する形で十分と説明しています。実務では、この考え方と施設の記録規程を区別し、院内で求められる記載方法に従います。
診断名の表記やコードは、使用する版をそろえて確認します。2024–2026年版には新規診断に加えて、診断名の変更や削除された診断に関する説明もあります。古い学習ノート、インターネット上の一覧、電子カルテの選択肢に違いがある場合は、どの版に基づくものかを確認し、名称が似ているだけで同一の診断と扱わないようにしましょう。
ナンダの看護診断は、名称を決めたところで完了するものではありません。診断に基づいて測定可能な目標・アウトカムを設定し、その達成に向けた看護介入を選び、結果を再評価するために使います。公式解説は、可能であれば関連因子や危険因子に働きかけ、症状の管理も行いながら、状態の変化に応じて診断と計画を修正する流れを示しています。
例えば、活動時の困難についてケアを計画するなら、「活動状態が改善する」だけでは評価しにくいため、対象となる活動、患者が感じる負担、援助の必要度、確認する時期などを具体化します。「いつまでに、どのような活動を、どの程度の援助で行えることを目指すか」という形にすると、患者との目標共有と再評価につなげやすくなります。ただし、目標値や期限は例文から一律に転用せず、患者の状態と希望に応じて設定する必要があります。
標準化された看護用語を組み合わせる場合、NANDA-Iは看護診断、NICは看護介入分類、NOCは看護成果分類を担います。これらは、判断した課題、実施する看護、評価する成果をつなげて整理するための仕組みです。診断が同じでも介入や目標がすべて同一になるわけではなく、患者の状態に応じて具体化することが欠かせません。
参考)https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-3-032-01446-7_18
診断後に目標が達成できない場合は、患者の努力不足と決めつけず、当初の診断が適切だったか、関連する要因を十分に捉えていたか、介入が実際の生活状況に合っていたかを見直します。新しい情報によって診断候補が変わることは、看護過程の不備ではなく、継続的な再評価の結果として起こり得ます。患者の反応と希望を確認しながら、診断・目標・介入の整合性を更新していくことが重要です。
ナンダの看護診断を臨床で役立てる鍵は、一覧の暗記ではなく、患者情報から仮説を立て、定義と指標で確かめ、その判断を具体的なケアと評価へつなげることです。診断名が患者の説明に合わない場合は、無理に分類へ押し込まず、不足する情報を集め直し、捉えた問題を明確に記録します。標準化された言語は、患者一人ひとりを理解するための臨床推論を支える道具として活用しましょう。