

気管チューブのカフは、チューブの先端近くに設けられた、空気で膨らむ袋状の構造です。気管内で拡張してチューブと気管壁の隙間を塞ぎ、陽圧換気時のガス漏れを抑えます。カフには細い注入ラインとパイロットバルーン、空気の出入りを制御するバルブがつながっています。成人用の気管チューブでは、大容量・低圧カフを備えた製品が使われています。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/610015_302ADBZX00021000_A_01_03)
また、パイロットバルーンはカフの拡張状態を示すものであり、適正な圧を保証するものではありません。指で触れた硬さだけでは、圧が高すぎるのか、低すぎるのかを正確に判断できません。空気が入っていることの確認と、カフ内圧の測定は別の行為として扱い、圧管理にはカフ圧計を用います。
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本記事は、主として成人のカフ付き気管チューブを対象にしています。小児用や特殊なカフを備えた製品では管理条件が異なるため、成人の一般的な数値をそのまま適用せず、使用製品の電子添文と施設の手順を確認してください。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/610015_304AABZX00069000_A_01_01)
成人の気管チューブでは、カフ圧20〜30cmH2Oが一般的な管理の目安として示されています。低すぎる圧はガス漏れや分泌物の流入につながり、高すぎる圧は気管粘膜を圧迫して血流を障害するおそれがあります。ただし、この範囲にあれば、どの患者でも粘膜障害が起きないと保証されるわけではありません。
ait-journal(https://www.ait-journal.com/Endotracheal-tube-cuff-pressure-assessment-expectations-versus-reality,193139,0,2.html)
特に重要なのは、電子添文に記載された製品別の上限を優先することです。PMDAで公開されている資料には、カフ圧の上限を25cmH2Oとする製品や、特定のタイプで20cmH2Oを超えないよう求める製品もあります。「一般的に30cmH2Oまで」と覚えていても、使用中の製品では上限超過になる可能性があります。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/610015_304AABZX00069000_A_01_01)
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 成人の一般的な管理目安 | 20〜30cmH2O | 個々の製品の指示と患者の換気状態を確認する。 |
| 製品ごとの上限 | 25cmH2O以下など、製品によって異なる | 同じ気管チューブでも種類やタイプによる違いに注意する。 |
| カフ圧が低い場合 | エアリーク、換気の不十分さ、分泌物の流入を評価 | 圧だけでなく、チューブ位置やカフの状態も確認する。 |
| カフ圧が高い場合 | 気管粘膜の圧迫や血流障害の危険性が増す | |
| 測定方法 | カフ圧計を使用して評価 | パイロットバルーンの触診のみで判断しない。 |
カフ圧の単位にも注意が必要です。資料によってcmH2O、hPa、mmHgなどの表記が使われますが、異なる単位の数値をそのまま比較してはいけません。例えば、PMDAのTaperGuard Evac気管チューブの電子添文では、上限が29hPa、括弧内に30cmH2Oと併記されています。機器の表示単位と指示された単位をそろえて確認します。
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挿管前のカフの漏れ確認と、患者に挿入した後の管理圧も区別してください。添付文書によっては、使用前の点検として30〜40cmH2Oで圧保持を確認する記載がありますが、それは患者の気管内で維持すべき圧を意味しません。点検条件と臨床使用時の条件を読み分ける必要があります。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/OldPdfData/21000BZY00732000_A_01/2)
PMDA:Shiley スタンダード気管チューブの電子添文
PMDA:パーカー気管チューブ薄型カフの電子添文
カフ管理では、カフ圧計の数値だけでなく、実際に換気が保たれているかを併せて確認します。圧を目標値に合わせても、漏れが続く、呼気一回換気量が低下するなどの異常があれば、調整完了とは判断できません。逆に、漏れが聞こえないことだけを根拠に空気を追加し続けると、過膨張を見逃すおそれがあります。
ait-journal(https://www.ait-journal.com/Endotracheal-tube-cuff-pressure-assessment-expectations-versus-reality,193139,0,2.html)
測定・調整は、使用するカフ圧計と気管チューブの取扱方法、施設の手順に従って実施します。カフ圧計を使いながら、必要な密閉性を得られる最小限の空気量を検討することが基本です。注入量を「成人なら何mL」と固定するのではなく、圧と密閉性を確認して判断します。最小閉塞容量法などを併用する場合も、圧の実測を省略しないことが重要です。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/290348_226AABZX00108000_A_01_07)
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/610015_304AABZX00069000_A_01_01)
ait-journal(https://www.ait-journal.com/Endotracheal-tube-cuff-pressure-assessment-expectations-versus-reality,193139,0,2.html)
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口元から漏れる音がする、人工呼吸器の低換気量アラームが出る、呼気側の換気量が減るなどの場合、カフ周囲の漏れが疑われます。ただし、原因をカフ圧低下だけに決めつけてはいけません。患者の換気を妨げる問題として評価し、呼吸・循環状態に異常があれば、速やかに応援を要請して、施設の気道緊急対応手順に従います。カフ圧の測定だけに集中して換気確保を遅らせないことが重要です。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/610015_302ADBZX00021000_A_01_03)
原因を考える際は、カフ内の空気不足、カフや注入ラインの損傷、バルブの不具合、チューブ位置の変化などを区別します。カフ圧を調整しても短時間で再び低下する場合には、単に注入量が足りないのではなく、圧を保持できない問題が疑われます。使用前の点検でも、カフだけでなく注入ライン、パイロットバルーン、バルブの確認が求められている点が参考になります。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/610015_302ADBZX00021000_A_01_03)
一方、カフ圧が製品の上限近くに達しているのに漏れが止まらない場合は、空気の追加だけで解決しようとしないことが大切です。チューブの深さや位置、カフの状態、必要な密閉性が得られているかを気道管理担当者と再評価します。過度の拡張は、気管損傷だけでなく、カフ破裂や変形に伴う気道閉塞の原因にもなり得ます。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/610015_221AABZX00145000_A_07_11)
PMDA:TaperGuard 気管チューブの電子添文
ここで区別したいのが、日常管理で問題となる「カフ周囲のエアリーク」と、抜管前に行う「カフリークテスト」です。前者は、通常の換気中に必要な密閉性が保たれていない可能性を示します。後者は、カフを脱気したときにチューブ周囲を通る空気の漏れを評価し、抜管後の上気道狭窄、特に喉頭浮腫などによる喘鳴のリスクを判断するための検査です。同じ漏れでも、評価する場面と目的が異なります。
ait-journal(https://www.ait-journal.com/Endotracheal-tube-cuff-pressure-assessment-expectations-versus-reality,193139,0,2.html)
ATS/CHESTの人工呼吸器離脱ガイドラインでは、抜管基準を満たした成人のうち、抜管後喘鳴のリスクが高いと判断される患者に、カフリークテストを実施することを条件付きで推奨しています。すべての挿管患者に一律に行う検査として位置づけているわけではありません。また、漏れが乏しい結果だけで抜管不能と断定せず、他の抜管条件や患者の状態と合わせて判断します。
thoracic(https://www.thoracic.org/statements/resources/cc/weaning-rehab-protocols-CLT.pdf)
同ガイドラインでは、カフリークテストで十分な漏れが得られず、それ以外は抜管可能な成人に対して、抜管の少なくとも4時間前から全身性ステロイドを投与することを条件付きで推奨しています。薬剤の選択や投与量、抜管の時期は、担当医が個別に判断する事項です。これは、通常のカフ圧調整とは目的も判断主体も異なる対応であることを理解しておきましょう。
thoracic(https://www.thoracic.org/statements/resources/cc/weaning-rehab-protocols-CLT.pdf)
なお、抜管前には、使用製品の指示に従ってカフを完全に脱気する必要があります。カフが十分にしぼんでいない状態での抜去は、気管を損傷するおそれがあります。日常のカフ圧管理、抜管前のカフリークテスト、実際の抜去時の脱気を混同せず、それぞれの目的と確認事項を分けて実施することが、安全な気道管理につながります。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/OldPdfData/21000BZY00732000_A_01/2)
ATS/CHEST:人工呼吸器離脱とカフリークテストに関する診療ガイドライン