

グリシンはタンパク質を構成するアミノ酸の一つで、体内ではセリンなどから合成されます。通常の食事にも含まれ、クレアチン、グルタチオン、プリンなどの生合成に関わります。このため、日常の食事から摂取するグリシンと、特定の目的で遊離グリシンをまとめて摂取するサプリメントは、曝露量や摂取条件を分けて評価する必要があります。生体に存在する物質であっても、それだけで高用量摂取の安全性が保証されるわけではありません。
参考)https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kya20100216041&fileId=101
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 睡眠目的の短期研究 | 3g/日、就寝30分~1時間前、2~4日間の評価 | |
| 高用量の単回経口投与 | 0.8g/kg体重の投与条件で神経生理学的指標への悪影響を報告 | |
| 静脈内投与 | 200mg/kg体重の条件で認知機能などへの悪影響を報告 | |
| 9gの急性安全性研究 | 急性の重篤な有害事象や翌日への眠気の持ち越しは認めなかったとの報告 | 単回・短期の観察であり、9gの常用を推奨する根拠ではない。 |
| アルツハイマー病の予防・治療 | グリシン単独の臨床的有効性を支持する十分な根拠はない |
日本の食品安全委員会は、2012年10月の評価書で、グリシンを動物用医薬品および飼料添加物として通常使用する場合、食品に残留することによって人の健康を損なうおそれのない物質と評価しています。この結論は、食用動物への使用に由来する食品中の残留を対象にしたものです。評価書に掲載された意見への回答でも、ヒトがグリシンを直接摂取することについて評価したものではないと明記されています。
したがって、この資料の「安全性に関する特段の問題はみられていない」という記述だけを抜き出して、濃縮サプリメントの高用量・長期間の使用まで公的に保証されていると説明するのは不適切です。食品中の残留、香料としての使用、栄養補給目的の直接摂取では、評価の対象と曝露条件が異なります。医療従事者向けの記事では、結論だけでなく「何を、どの条件で評価した資料なのか」を併記することが欠かせません。
なお、同評価書には、ラットへの高用量・長期投与で腎乳頭部壊死などが認められた毒性試験も記載されています。しかし、その結果を体重だけで単純換算し、「人では何gから危険」と決めることはできません。反対に、こうした毒性情報を無視して無条件に安全とすることも適切ではありません。動物試験は危険性を検討する情報であり、実際のヒトのリスク評価には曝露量や種差などの検討が必要です。
例えば、2023年の報告では、高齢者24人をGlyNAC群12人とアラニンプラセボ群12人に割り付け、16週間介入した試験が行われています。研究期間中の忍容性は良好と報告されましたが、この結果を、すべての高齢者やアルツハイマー病患者における有効性・長期安全性の保証に置き換えることはできません。少人数の試験であることに加え、グリシンとNACの併用であり、グリシン単独の効果を切り出せない点が重要です。
服薬状況も確認対象です。グリシンは統合失調症領域で高用量の追加投与が検討されており、クロザピン服用患者に30g/日または60g/日を併用した比較試験もあります。ただし、これらは精神科診療下の高用量研究であり、睡眠目的の少量摂取で同じ相互作用が生じると断定する根拠にはなりません。向精神薬を服用している患者では、自己判断による追加・増量を避け、処方医と薬剤師が製品と用量を共有して評価する対応が適切です。
参考)https://psycnet.apa.org/record/1999-00033-019