太っていても糖尿病にならない人の特徴と診療の視点

太っていても糖尿病にならない人の特徴と診療の視点

太っていても糖尿病にならない人には、インスリン分泌能や脂肪分布などの個人差が関係します。ただし、現在の正常血糖が将来の安全を保証するわけではありません。医療従事者はどのように評価し、予防支援につなげるべきでしょうか?

太っていても糖尿病にならない人の基礎知識と核心ガイド

肥満でも血糖が上がらない理由と評価
血糖を左右する分泌能と抵抗性

肥満でもインスリンの効きと分泌の釣り合いが保たれていれば、血糖上昇が目立たない場合があります。

体重だけでなく脂肪分布を確認

同じBMIでも内臓脂肪や肝臓への脂肪蓄積には差があり、外見だけでは糖尿病リスクを判断できません。

正常血糖でも継続評価が必要

代謝的に健康な肥満でも将来の糖尿病リスクは残るため、検査値の推移と合併する健康障害を確認します。


太っていても糖尿病にならない人がいる理由



また、脂肪組織は単なる余剰エネルギーの貯蔵庫ではありません。脂肪の蓄え方や炎症の程度、分泌されるアディポカインの違いも、インスリンの働きに関係します。内臓脂肪の過剰蓄積では、脂肪酸の肝臓への流入や炎症性サイトカインの増加、アディポネクチンの低下などを通じて、インスリン抵抗性が生じやすくなります。


参考)https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/13_1.pdf
したがって、患者への説明は「太っていても平気な体質」ではなく、「現時点では血糖を調節する仕組みが保たれている可能性がある」とするほうが適切です。肥満と糖尿病の関係を体型だけで説明すると、肥満のある人には不要な決めつけを、痩せている人には誤った安心感を与えかねません。BMIが25未満でも、内臓脂肪蓄積によるインスリン抵抗性を認める症例があることを踏まえて説明します。



体型と検査値を分けて評価する

「太っている」という日常表現は、医学的な肥満の判定と必ずしも一致しません。日本ではBMIが25以上を肥満と判定しますが、BMIは脂肪量だけでなく筋肉量や体水分量にも影響されます。また、肥満のうち、関連する健康障害を合併するか、健康障害の合併が予測される内臓脂肪型肥満で、医学的に減量を必要とする病態が「肥満症」です。糖尿病がなくても、他の健康障害によって肥満症に該当する場合があります。


糖尿病の有無は、BMIや腹囲ではなく血糖検査を中心に判断します。日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドライン2024では、空腹時血糖、75g経口ブドウ糖負荷試験の2時間値、随時血糖、HbA1cについて糖尿病型の基準が示されています。以下の表では、肥満関連の評価と糖尿病型の判定基準を区別して整理します。


参考)https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/01.pdf








項目 基準・内容 備考
BMI 体重kg÷身長m÷身長m。日本では25以上を肥満と判定。 筋肉や体水分も反映し、脂肪分布は分からない。
腹囲 男性85cm以上、女性90cm以上で内臓脂肪蓄積が疑われる。 内臓脂肪の推定指標であり、糖尿病の診断基準ではない。
腹部CTの内臓脂肪面積 100cm²以上が内臓脂肪蓄積の基準。 BMI25以上の場合、肥満症の診断判断に関係する。
空腹時血糖 126mg/dL以上で糖尿病型。 糖尿病型と糖尿病の確定診断を区別する。
75gOGTTの2時間値 200mg/dL以上で糖尿病型。 空腹時の値だけでは捉えにくい耐糖能異常の評価にも用いる。
随時血糖 200mg/dL以上で糖尿病型。 症状や他の検査結果と合わせて診断する。
HbA1c NGSP値で6.5%以上が糖尿病型。 HbA1cのみの反復検査では確定診断できない。

別の日の検査で糖尿病型が2回以上確認されれば糖尿病と診断しますが、少なくとも1回は血糖値による確認が必要です。同一採血で血糖値とHbA1cがともに糖尿病型であれば、1回の検査でも診断できます。また、血糖値が糖尿病型で、典型的な高血糖症状や確実な糖尿病網膜症がある場合にも、1回で診断できる条件があります。


逆に、HbA1cが6.5%未満であることだけを根拠に糖尿病を否定することはできません。例えば、空腹時血糖が糖尿病型に達していなくても、負荷後血糖が糖尿病型になる場合があります。健診結果を伝える際は、「今回の測定値では糖尿病型を認めなかった」と「今後も糖尿病にならない」を明確に分け、必要な追加検査や経過観察の判断につなげます。


日本糖尿病学会:糖尿病診療ガイドライン2024「糖尿病診断の指針」


代謝的に健康な肥満をどう捉えるか

  • 糖尿病がなくても、高血圧、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群、運動器疾患などの肥満関連健康障害を確認します。

医療従事者にとって重要なのは、MHOというラベルをつけて観察を終えることではありません。血糖だけでなく、血圧、脂質、腹囲、体重変化、肥満関連の健康障害を継続して評価し、代謝的健康が維持されているかを確認します。正常血糖は評価項目の一つであり、肥満の影響全体を代表するものではないと捉える必要があります。



問診と経過観察で見逃しを減らす

太っていても糖尿病にならない人を評価する際は、現在の体重だけではなく、体重の変化と検査値の推移を確認します。BMIが同程度でも、腹囲や代謝指標、身体活動、家族歴などが異なれば、同じリスクとは限りません。糖尿病診断も数値だけで完結させず、症状や臨床所見、家族歴、体重歴などを踏まえて総合的に判断します。


例えば、同じBMI28の患者でも、腹囲が小さく血圧・脂質・血糖が安定している人と、腹囲の増大に加えて脂質異常や血糖値の上昇を認める人では、評価すべき課題が異なります。これは説明用の仮想例ですが、BMIの数字だけで「同じ程度の肥満だから同じ程度の糖尿病リスク」と扱わないことを示しています。腹囲はBMIとは別に測定し、脂肪分布に関する情報として活用します。


血糖値かHbA1cの一方だけが一度糖尿病型となり、診断が確定しない場合には、日本糖尿病学会のガイドラインは3~6か月の間隔で血糖値やOGTTを反復し、経過を観察する方針を示しています。この間隔はすべての肥満者に一律に適用するものではなく、診断が確定しない状況に対する指針です。症状や検査結果に応じて、個別に対応します。


また、空腹時血糖が糖尿病型に達していなくても、内臓脂肪蓄積や他の代謝異常がある場合には追加評価を検討します。ガイドラインでは、メタボリックシンドロームに関する評価の中で、空腹時血糖が100mg/dL以上であれば、必要に応じて75gOGTTの追加を検討するとしています。「空腹時血糖が126mg/dL未満だから問題ない」と機械的に判断しないことが大切です。


問診では、口渇、多飲、多尿、意図しない体重減少などの典型的な症状を確認します。肥満のある患者の体重減少を、すべて生活改善の成果とみなしてはいけません。これらの症状がある場合は、過去の健診値が正常だったとしても、現在の血糖状態を評価する必要があります。


参考)糖尿病診断基準|一般社団法人日本糖尿病学会
日本糖尿病学会:糖尿病診断基準


正常血糖を保つための予防支援

予防支援では、「糖尿病ではないので何もしなくてよい」と「肥満だから必ず糖尿病になる」の両極端を避けます。現在の検査値を肯定的に伝えながら、今後の体重増加や内臓脂肪蓄積、代謝指標の変化を確認する必要性を説明します。肥満の中でも医学的な減量が必要かどうかは、肥満症の有無や健康障害、年齢、身体機能などを踏まえて判断します。


食事や身体活動への支援は、単に体重の数字を下げるためではなく、内臓脂肪や代謝状態の改善を目指して行います。日本糖尿病学会のガイドラインでは、メタボリックシンドロームに対し、食事・運動を含めた生活習慣改善を通じて内臓脂肪蓄積の減少を目指す方針が示されています。患者の食事記録、活動状況、勤務形態、睡眠や生活リズムを確認し、継続可能な行動目標に落とし込むことが重要です。


減量の必要性と目標も個別化します。ガイドラインでは、肥満症では現体重の3%、高度肥満症では5~10%の減量を目指し、健康障害の改善効果と合わせて評価することが推奨されています。例えば、体重80kgの肥満症患者で3%を目標とする場合、減量幅は2.4kgです。ただし、この目標を正常血糖の肥満者全員に一律に当てはめたり、到達すれば糖尿病予防が保証されると説明したりしないようにします。


高齢者では、フレイル、ADL低下、合併症、体組成、摂取状況などを踏まえて目標体重を判断します。体重減少だけを成功指標にせず、身体機能や栄養状態も含めて評価する姿勢が必要です。患者の背景によっては、体重を急激に減らすことよりも、生活の質を保ちながら代謝指標を改善する支援が重要になります。


さらに、肥満の背景に二次性の要因がないかも確認します。ガイドラインには、内分泌性肥満、遺伝性肥満、視床下部性肥満、ステロイドや向精神薬などによる薬剤性肥満が挙げられています。体重増加を本人の意思の弱さだけで説明せず、病歴や服薬歴を確認し、必要に応じて原因の評価につなげます。


患者への説明例としては、「今の検査では血糖は保たれています。ただ、体重だけでは今後のリスクは決められないので、腹囲、血圧、脂質、血糖の変化を一緒に確認しましょう」と伝える方法があります。太っていても糖尿病にならない人を、例外的に安全な集団とみなすのではなく、現在の代謝状態を評価し、その良好な状態を維持するための支援につなげることが、医療従事者に求められる視点です。


日本糖尿病学会:糖尿病診療ガイドライン2024「肥満を伴う糖尿病」

【指定第2類医薬品】イブA錠 90錠