

フェルビナク スチック軟膏は、非ステロイド性消炎鎮痛薬であるフェルビナクを含む、経皮吸収型の鎮痛・消炎剤です。本記事では医療用医薬品「フェルビナクスチック軟膏3%『三笠』」を対象に、確認できた2024年10月改訂の電子添文と製造販売元のインタビューフォームを基に解説します。製剤1g中に日本薬局方フェルビナク30mgを含有し、白色~淡黄白色半透明の固形軟膏剤という性状を持ちます。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/750007_2649731M1098_1_05
フェルビナクはフェンブフェンの活性代謝物です。作用機序には、シクロオキシゲナーゼの阻害によるプロスタグランジン生合成抑制作用などが関与します。電子添文に掲載された酵素試験や動物試験は、この薬理作用を裏付ける情報ですが、その結果をそのままヒトでの鎮痛効果の強さや他剤に対する優越性に置き換えて解釈することはできません。
剤形上の特徴は、容器から薬剤を出し、そのまま患部へ直接塗擦できることです。一般的なチューブ入り軟膏のように、一度薬剤を手に取る必要がありません。インタビューフォームでは、健常部位への不必要な投与を避けられることも製剤の特性として挙げられています。添加剤には、プロピレングリコール、l-メントール、イソプロパノールなどが含まれるため、薬剤アレルギーの確認は有効成分だけでなく製剤全体を対象に行います。
参考)https://www.mikasaseiyaku.co.jp/md/wp-content/uploads/2026/02/FBS_IF-1.pdf
旧販売名は「スミルスチック」「スミルスチック3%」です。一般的名称を基本とする販売名への変更により、2020年7月に現在の名称で承認されています。旧名称が記載された診療情報や患者のお薬手帳を確認する際には、名称が異なることだけを理由に別成分の薬剤と判断せず、成分・濃度・剤形を照合することが重要です。
三笠製薬:フェルビナクスチック軟膏3%「三笠」インタビューフォーム
承認されている効能・効果は、変形性関節症、筋・筋膜性腰痛症、肩関節周囲炎、腱・腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎、筋肉痛、外傷後の腫脹・疼痛における鎮痛・消炎です。「痛みがある部位なら原因を問わず使用できる」という意味ではなく、対象疾患と疼痛の背景を確認したうえで使用を判断します。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 有効成分・濃度 | 1g中フェルビナク30mg、濃度3% | 固形軟膏剤として患部へ塗擦する。 |
| 関節・腰部の適応 | 変形性関節症、筋・筋膜性腰痛症、肩関節周囲炎 | 各疾患の鎮痛・消炎を目的とする。 |
| 腱・筋・外傷の適応 | 腱・腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎、筋肉痛、外傷後の腫脹・疼痛 | 上腕骨上顆炎にはテニス肘等を含む。 |
| 用法・用量 | 症状により、適量を1日数回患部に塗擦する。 | 電子添文には、一律の1回使用量や1日の上限量の具体的数値は記載されていない。 |
| 治療上の位置付け | 原因療法ではなく対症療法 | 慢性疾患では薬物療法以外の療法も考慮する。 |
用法・用量を説明するときは、承認用法と試験条件を区別する必要があります。インタビューフォームに記載された旧処方製剤の一般臨床試験では、1日3~4回の使用が行われています。しかし、現行の電子添文上の表現は「適量を1日数回」です。試験で使われた回数や量を、すべての患者に適用する固定的な指示として紹介することは避けます。
同様に、電子添文の薬物動態に登場する「10g単回塗擦」「1回3.3gを1日3回」といった数値は、血中濃度を評価するための試験条件です。これらは通常診療における推奨塗布量を示したものではありません。患者指導では、処方時の具体的な指示と対象部位を確認し、試験条件の数値を自己判断による増量の根拠にしないよう説明します。
また、本剤の基本的な役割は対症療法です。症状の軽減と原因疾患の治療は区別しなければなりません。変形性関節症などの慢性疾患では、電子添文も薬物療法以外の療法を考慮するよう求めています。疼痛が続く場合には、単に外用回数を増やすのではなく、病態と治療方針を再評価する視点が必要です。
禁忌は、本剤の成分に対する過敏症の既往歴がある患者と、アスピリン喘息またはその既往歴がある患者です。電子添文では、アスピリン喘息を「非ステロイド性消炎鎮痛剤等による喘息発作の誘発」と説明しています。使用前には病名の申告だけでなく、鎮痛薬などを使用した際の呼吸症状についても確認することが、禁忌の見落とし防止につながります。
アスピリン喘息ではない気管支喘息患者も、無条件に安全と判断することはできません。電子添文の「特定の背景を有する患者に関する注意」では、これらの患者にも喘息発作を誘発するおそれがあると記載されています。アスピリン喘息が禁忌であることと、その他の気管支喘息にも注意が必要であることを分けて理解します。
密封包帯法を避ける理由について、インタビューフォームには旧処方製剤を用いた健常人の皮膚刺激性試験が記載されています。アルコールを含む本製剤では、密封系のパッチテストで皮膚刺激性が確認され、開放系では認められませんでした。ただし、これは所定の試験条件で得られた結果であり、通常使用で皮膚障害が起こらないことを保証するものではありません。
皮膚感染症にも注意が必要です。感染を伴う炎症に使用する場合は、適切な抗菌剤または抗真菌剤を併用し、十分に観察しながら慎重に使用するよう電子添文に記載されています。炎症症状が目立たなくなり、皮膚感染症が不顕性化するおそれがあるためです。赤みや痛みの軽減だけを根拠に、感染自体が改善したと判断しないことが重要です。
妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用します。電子添文には、シクロオキシゲナーゼ阻害剤の経口剤・坐剤を妊婦に使用し、胎児の腎機能障害と尿量減少、それに伴う羊水過少症が起きたとの報告が記載されています。また、妊娠中期以降の使用による胎児の動脈管収縮の報告も示されています。
ここで区別したいのは、注意喚起の根拠となる報告と、本剤そのものの臨床データです。これらの記載を、本剤の通常使用で同じ事象が同じ頻度で発生すると読むことはできません。一方で、外用剤という理由だけで妊娠中の安全性を保証することもできません。患者説明では、本剤の使用判断が有益性と危険性の評価に基づくことを明確にします。
小児等を対象とした臨床試験は実施されていません。この情報は、一定年齢以上なら安全性が確立している、あるいは成人の使用方法をそのまま適用できることを意味しません。高齢者については、副作用の発現に特に注意し、必要最小限の使用にとどめるなど慎重に使用するよう求められています。年齢だけでなく、皮膚症状や実際の使用状況を確認することが大切です。
「塗り薬なので血液中には入らない」という説明も適切ではありません。電子添文に掲載された健康成人男子6例の試験では、フェルビナク軟膏3%を10g単回塗擦した後、24時間目に平均最高血中濃度411ng/mLが認められています。これは限定された条件での試験ですが、外用後にも全身曝露が生じることを示しています。なお、血中濃度が最高になる時刻は、そのまま鎮痛効果が最大になる時刻を示すものではありません。
インタビューフォームでは、乳汁への移行性は「該当資料なし」、相互作用の併用禁忌・併用注意は「設定されていない」とされています。情報がないことや項目が設定されていないことを、安全性が十分に証明されているという意味に読み替えない姿勢が必要です。授乳中の使用や他剤との併用について相談を受けた場合も、資料の有無と確認できる内容を分けて説明します。
電子添文には、国内5施設で実施された一般臨床試験の結果が掲載されています。有効性解析対象82例における「中等度改善以上」の割合は、変形性膝関節症で56.7%、肩関節周囲炎で58.6%、外傷性疾患で95.7%でした。分母はそれぞれ30例、29例、23例です。同じ改善率という表示でも対象疾患が異なるため、数字だけを並べて本剤の効果を一律に説明することは適切ではありません。
インタビューフォームによれば、これらは旧処方製剤で行われた試験です。投与期間は、変形性膝関節症と肩関節周囲炎が2週間、打撲または捻挫を対象とした外傷性疾患が1週間でした。対象、期間、解析対象例数が異なるうえ、掲載された改善率だけでは自然経過などの影響を切り分けられません。「外傷では約96%に必ず効く」「他の鎮痛薬より強い」といった説明の根拠にはできない点に留意します。
また、インタビューフォームの作用発現時間・持続時間は「該当資料なし」です。「塗って何分で効く」「効果は何時間続く」といった質問に対し、明確な裏付けがない数値を提示することは避けます。実際の診療では、患者がどの症状の改善を求めているのかを共有し、使用後の疼痛や日常動作の変化と皮膚症状を確認する形で、治療の継続可否を評価します。
患者指導では、処方された部位に用法どおり塗擦すること、眼・粘膜に使わないこと、密封しないこと、異常があれば使用を中止して相談することを具体的に伝えます。特に、発赤やヒリヒリ感を「薬が効いている証拠」と解釈して継続しないよう、副作用として確認すべき症状を事前に共有しておくことが重要です。
保管指導も製剤の品質に直結します。本剤は揮発性があり、キャップを閉めずに置くと薬剤がもろくなり、使用できなくなることがあります。使用後は必ずキャップをきちんと閉め、火気、直射日光、高温を避け、小児の手の届かない場所で保管します。電子添文上の貯法は室温保存、有効期間は3年ですが、この期間を開封後に一律で使用できる期限として説明するものではありません。
さらに、インタビューフォームでは、家具や塗装床などの塗料、化繊、絹、皮革等に付着すると変質することがあるとされています。患部へ直接使用できる利便性だけでなく、周辺物品への付着や保管状態まで説明することで、日常生活に即した指導になります。医療従事者は、適応と禁忌、使用後の変化、製剤の管理方法を一連の確認事項として扱い、処方・調剤時にはPMDAで最新の電子添文を確認してください。
PMDA:フェルビナクスチック軟膏3%「三笠」の医療用医薬品情報