

「アメリカ 薬 持ち込み禁止」と検索する患者に対し、医療従事者が最初に伝えるべきことは、日本の薬がすべて禁止されているわけではなく、反対に、日本で合法的に購入・処方された薬が無条件で持ち込めるわけでもないという点です。米国食品医薬品局(FDA)は、ある国で承認された医薬品が別の国でも承認されているとは限らないと注意喚起しています。判断には、薬の一般名、製剤、規格、数量、本人の使用目的、渡航者の属性が関係します。
参考)Traveling with Prescription Me…
確認すべき制度は大きく三つあります。FDAは医薬品の承認や輸入に関する制度を扱い、米国麻薬取締局(DEA)は規制薬物の輸入可否に関与します。米国税関・国境警備局(CBP)は入国時の申告や検査に関係する窓口です。FDAとDEAの両方の管轄に入る製品については、両機関が調整して持ち込みの可否を判断するとFDAは説明しています。
参考)Personal Importation
ここで重要なのは、FDAの案内が米国市民と外国人を分けていることです。FDAが個人用医薬品について示す「外国人」とは、米国市民でも永住者でもない人を指します。日本から観光や出張、留学で渡航する人の説明と、米国に居住する人が日本で購入した薬を持って戻る場合の説明を混同してはいけません。米国市民向けの案内では、国外で購入したFDA未承認の医薬品の個人輸入は多くの場合違法であり、一定の事情で裁量的に許容を検討する制度が示されています。
そのため、患者相談では「薬の名前は何ですか」だけでなく、「米国の永住資格はありますか」「普段の居住地はどこですか」「何日間滞在しますか」も確認します。持ち込み禁止薬の固定的な商品名リストだけでは、こうした適用条件を拾えません。個別確認を基本として、本人の条件と製品情報をそろえて公式窓口に照会する運用が必要です。
特に注意が必要なのは、規制薬物を含む処方薬や配合剤です。DEAの分類では、メチルフェニデートはSchedule II、トラマドールはSchedule IVに位置付けられています。また、コデインは成分名だけで一つの区分に決まるとは限らず、含有量や配合条件によって異なる区分が適用されます。日本での「処方薬」「市販薬」という区別だけで米国の規制対象かどうかを判断しないことが重要です。
参考)Diversion Control Division
ただし、規制薬物であることと、旅行者が一切携行できないことは同じではありません。連邦規則21 CFR 1301.26は、本人の医療用途などのために適法に取得したSchedule II~Vの規制薬物について、調剤時の元の容器での携行、税関への申告などを条件とする例外を定めています。医療従事者は「禁止です」と一律に回答するのではなく、この例外の適用条件を確認する必要があります。
参考)21 CFR § 1301.26 - Exempt…
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 通常の個人用医薬品 | FDAは対象となる外国人に90日分の持参・送付を認める案内を示している。 | 規制薬物などの別条件まで免除する案内ではない。 |
| メチルフェニデート | DEAのSchedule IIに該当する。 | 治療目的でも元の容器、申告、本人の条件を確認する。 |
| トラマドール | DEAのSchedule IVに該当する。 | 鎮痛薬という用途だけで通常薬と同じ扱いにしない。 |
| コデイン含有製剤 | 含有量や配合条件によって規制区分が異なる。 | せき止めなどの配合剤も全成分と濃度を確認する。 |
| 医療用マリファナ | CBPは国境を越える持ち込みについて禁止を案内している。 | 州内での医療使用の合法性を輸入許可と混同しない。 |
| 米国で未承認の医薬品 | 米国市民向け案内では原則的な輸入禁止と限定的な裁量判断が示されている。 | 外国人向けの個人用医薬品の案内と区別する。 |
大麻関連製品についても、「渡航先の州で医療用大麻が合法だから持っていける」という説明は不適切です。CBPは、州や他国で医療用・嗜好用の使用が認められていても、国境でのマリファナの輸入・輸出は別問題であり、押収、罰金、逮捕や入国資格への影響につながり得ると案内しています。患者が所持する製品が医療用マリファナなのか、別の承認医薬品なのかを識別せず、大麻関連という呼び方だけで判断しないようにします。
DEA:規制薬物の分類と確認方法
CBP:マリファナの国境持ち込みに関する注意事項
FDAは、対象となる外国人が米国に旅行、留学、仕事などで滞在する場合、個人用医薬品を90日分持参または送付できると案内しています。一方、一般的な旅行案内では、滞在中に必要な本人使用量にとどめ、90日分を超えないことが目安とされています。「90日分以内なら薬の種類を問わず許可される」という意味ではないため、規制薬物を含む患者には別の条件も説明します。
特に混同しやすいのが、米国居住者に対する「50投与単位」の規定です。21 CFR 1301.26では、米国居住者が国外で本人の医療用途のために取得した対象の規制薬物を持ち込む場合、合計50 dosage unitsまでという制限が置かれています。これは50日分を意味するものではなく、また、日本から一時的に訪れる旅行者全員に適用される一律の上限でもありません。同条の居住者は実際の主たる生活拠点が米国にある人として定義されており、国籍だけでは判断できません。
書類について、CBPは英語の有効な処方箋または医師の説明書を携行するよう案内しています。FDAの薬剤師向け情報では、医薬品のブランド名と一般名、剤形、規格、使用頻度を把握できる情報が重要とされています。日本語のお薬手帳だけに頼るのではなく、現地で読み取れる英文資料に必要な情報を整理することが実務上の対応となります。
一般的な処方薬については、元の容器がない場合に処方箋の写しや医師の説明書を持つという案内があります。しかし、これを規制薬物にもそのまま当てはめ、「書類さえあれば容器は不要」と説明してはいけません。規制薬物については連邦規則が元の容器を条件としているため、一包化やピルケースへの移し替えを予定している患者は、包装の扱いを事前に照会する必要があります。
21 CFR 1301.26:個人の医療用途における規制薬物の携行条件
渡航前相談では、最初に患者の国籍、永住資格、実際の居住地、滞在期間、携行か郵送かを整理します。次に、処方薬だけでなく、市販のせき止め、睡眠補助を目的に購入した製品、サプリメントなども含めて持参予定品を確認します。FDAの制度とDEAの規制は製品や成分によって関係するため、「病院で処方された薬だけ」を確認して終えると、配合剤などの確認が漏れる可能性があります。
薬剤一覧は日本の商品名を並べるだけでなく、一般名、配合成分、含有量、剤形を整理します。例えば、メチルフェニデートを使用する患者であれば、Schedule IIに該当することを踏まえ、持参量、元の容器、英文処方情報、申告の準備を検討します。コデイン含有のせき止めなら、成分名だけでなく濃度や配合条件まで確認します。このように、用途ではなく成分から規制を調べることが重要です。
照会時は「この薬を持ち込めますか」という質問だけにせず、患者の居住状況、渡航目的、滞在日数、一般名、規格、用法、数量、包装、医師の説明書の有無を提示します。規制薬物についてはDEA、入国時の申告や具体的な携行方法についてはCBP、個人用医薬品の輸入制度についてはFDAの案内を確認するという役割分担が考えられます。英文資料は審査時の説明に役立ちますが、資料の作成自体が持ち込み許可を保証するわけではありません。
患者への説明では、「持ち込みの問題を解決するために自己判断で休薬・減量することを前提にしない」という運用も重要です。必要な治療の継続方法は処方医と相談し、携行条件の照会と並行して検討します。別の薬への変更が必要と考えられる場合でも、米国に同じ一般名の製品があることだけで現地入手まで保証せず、製剤や適応の違いを含めて確認します。FDAも国によって医薬品の承認や承認適応が異なることに注意を促しています。
90日を超える留学や長期出張では、入国時に大量の薬を持参する方法だけを検討しないことが重要です。FDAは、対象となる外国人が90日を超えて滞在する場合、追加の医薬品を送付できると案内しています。郵便や宅配便で送る場合は、本人が滞在中に使用する薬であることを示す資料として、旅券・査証の写し、医師の説明書、英文処方箋の写しなどを同封することが推奨されています。
ただし、この郵送案内を規制薬物にも無条件で適用してはいけません。本人が薬を所持して入国する際の例外を定める21 CFR 1301.26と、郵送や宅配便による輸入は同じ手続きではありません。FDAも規制薬物の持ち込み判断にはDEAが関与すると説明しているため、家族に追加発送を依頼する前に、対象成分と発送方法について確認する必要があります。
また、空港の保安検査と米国への輸入審査も別の問題です。米国運輸保安庁(TSA)が薬を航空機の手荷物として検査することと、FDA・DEA・CBPが薬の米国への持ち込みを認めることは区別しなければなりません。FDAの旅行案内では、錠剤などの固形薬は保安検査を受けることを条件に検査場を通過できると説明されていますが、これは対象薬の輸入適法性まで保証するものではありません。
例えば、処方薬を英文説明書と一緒に機内持ち込み手荷物に入れたとしても、それだけで規制薬物の税関申告が不要になるわけではありません。逆に、税関で説明する準備が整っていても、注射薬や医療機器の航空輸送に関する確認がすべて済んだことにはなりません。患者向けの説明資料では、「米国への持ち込み条件」「税関への申告」「航空機の保安検査」を分けて記載すると、必要な確認事項を整理しやすくなります。
本記事は2026年10月6日時点で確認したFDA、DEA、CBPの公開案内と連邦規則を基にしています。個別製品の許可を保証する記事ではありません。医療従事者が患者へ提供する情報では、単に「アメリカで持ち込み禁止の薬」を列挙するのではなく、渡航者の属性、成分、数量、包装、英文資料、申告の条件を組み合わせて説明してください。最終的な持ち込み可否が不明な場合は、出発前に製品情報を提示して関係機関へ確認する必要があります。