


アフタ性口内炎とは、口腔粘膜に境界明瞭な円形または楕円形の有痛性潰瘍を生じる病態です。「アフタ」は病変の形態を表す言葉であり、口内炎全般と同義ではありません。典型的な病変は浅い粘膜欠損で、中央が白黄色から灰白色の偽膜に覆われ、その周囲に赤い縁取りである紅暈を認めます。白い部分はそれだけで膿や真菌感染を意味するものではなく、潰瘍表面の被膜として評価します。
参考)Recurrent Aphthous Stomatitis …
好発部位は口唇の内側、頬粘膜、舌の側面・下面、口底などです。小アフタ型は主に非角化粘膜に出現し、食事や会話、歯磨きの際に接触痛を生じます。病変の大きさに比べて疼痛が強い場合もあり、摂食量や口腔清掃の低下につながります。潰瘍形成に先行して灼熱感や痛みが現れることがありますが、典型的なアフタでは水疱形成が先行しない点が、感染性・水疱性疾患との鑑別に役立ちます。
同様の病変を繰り返し、他の原因で説明できない場合は、再発性アフタ性口内炎、英語ではrecurrent aphthous stomatitis、略してRASと呼びます。単発のアフタ様潰瘍と、特発性の再発性疾患としてのRASは区別して扱う必要があります。ベーチェット病、炎症性腸疾患、薬剤性病変などでも似た形態の口腔潰瘍を生じるため、見た目がアフタであることだけを根拠にRASと確定することはできません。
RASの原因は完全には解明されていません。遺伝的素因やT細胞を中心とした免疫反応、炎症性サイトカインの関与が考えられ、局所外傷や心理的ストレスは誘発要因として挙げられます。鉄、葉酸、ビタミンB12などの欠乏が関連する患者もいますが、すべての症例を栄養不足で説明できるわけではありません。「口内炎はビタミン不足」「疲れが原因」と一律に説明せず、患者ごとの背景を評価する姿勢が重要です。
再発性アフタ性口内炎は、主に小アフタ型、大アフタ型、疱疹状アフタの三つに分類されます。分類には病変の大きさだけでなく、深さ、個数、治癒期間、瘢痕形成の有無を用います。大きさの境界や各病型の割合には文献間で差があるため、数値は臨床像を整理する目安として扱います。最も多い小アフタ型は通常一〜二週間で治癒しますが、大アフタ型では数週間から数か月にわたり持続することがあります。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 小アフタ型 | 数mm程度の浅い潰瘍が典型で、一般に直径1cm未満。通常一〜二週間で治癒する。 | 最も多い病型。通常は瘢痕を残さない。 |
| 大アフタ型 | 一般に直径1cmを超える深い潰瘍。治癒に数週間から数か月を要することがある。 | 強い疼痛や嚥下困難を伴い、瘢痕を残す場合がある。 |
| 疱疹状アフタ | 小さな潰瘍が多数集簇し、融合して不整形の大きな潰瘍になることがある。 | ヘルペスに似た形態を表す名称であり、ヘルペスウイルスによる疾患ではない。 |
| 診療時の記録 | 部位、最大径、個数、深さ、発症日、疼痛、治癒までの日数、瘢痕の有無を確認する。 | 形態と時間経過を併せて把握し、病型や鑑別を検討する。 |
疱疹状アフタという名称は、患者にも医療従事者にも誤解されやすい点に注意が必要です。これは潰瘍の集簇がヘルペス性病変に似ていることを示すもので、病因を示す名称ではありません。多数の病変があるからといって抗ウイルス薬の適応になるわけではなく、先行する水疱、歯肉炎、発熱、病変分布などを確認して感染性病変を鑑別します。
また、大アフタ型なら長期間持続しても問題ないと判断することは危険です。初診時点で診断が確かでない潰瘍については、治癒の遅さを病型だけで説明せず、悪性病変、感染症、薬剤性病変、全身疾患などを再検討します。病型分類は診療を整理するための枠組みであり、遷延性病変の精査を省略する根拠にはなりません。
再発性アフタ性口内炎の診断は、基本的に問診と視診を中心とする臨床診断です。RASを単独で確定できる特異的な血液検査や病理所見はありません。典型的な形態、同様の病変を繰り返す経過、病変間の治癒を確認し、他の原因を除外します。口腔内診察では潰瘍だけでなく、歯肉、硬口蓋、舌、口唇、義歯や矯正装置の接触部位なども評価します。
参考)Recurrent Aphthous Stomatitis:…
感染症では、単純ヘルペスによる歯肉口内炎や再発性口腔内ヘルペスとの鑑別が重要です。初感染のヘルペスでは歯肉病変や全身症状が手掛かりとなり、角化粘膜にも病変が出現します。臨床像だけで判断しにくい場合は、適切な検体を用いたウイルス検査を検討します。小児では、口腔病変に加えて手足の皮疹がある場合の手足口病なども鑑別に含めます。
全身疾患の中でも、ベーチェット病は特に重要です。再発性口腔潰瘍に、外陰部潰瘍、ぶどう膜炎などの眼病変、結節性紅斑などの皮膚病変が伴う場合は、内科・膠原病科・眼科との連携を考えます。ただし、口腔潰瘍の形態だけではRASとベーチェット病を区別できず、再発回数だけで診断することもできません。初期には症状がそろわないことがあるため、経時的な問診と診察が必要です。
参考)https://www.den.hokudai.ac.jp/kouge1/case/oralmedicine/254
北海道大学歯学部口腔診断内科:ベーチェット病と慢性再発性アフタ
検査は全例に同じ項目を実施するのではなく、病歴と臨床所見に応じて選びます。頻回再発、重症化、従来と異なる発症パターン、栄養欠乏が疑われる背景などがあれば、血算、鉄関連指標、ビタミンB12、葉酸などを検討します。消化器症状を伴う場合は炎症性腸疾患や吸収不良、周期的な発熱を伴う場合はPFAPA症候群や周期性好中球減少症なども視野に入れます。
治療の目的は、疼痛を軽減し、潰瘍の治癒を促して、食事や会話、口腔清掃への支障を減らすことです。現在の治療で全患者の再発を完全に防げるわけではないため、症状の軽減と再発時の適切な対処を現実的な目標として共有します。外傷や栄養欠乏、全身疾患などの背景が見つかった場合は、口腔局所の治療だけでなく、その原因への対応を並行して行います。
薬物療法の中心は局所ステロイドです。トリアムシノロンアセトニドを含む口腔用製剤などが用いられ、可能であれば前駆症状や発症早期から治療することが推奨されます。ただし、使用する製剤、濃度、回数、期間は、国内の承認内容と添付文書、患者の年齢、病変の広がりに合わせて判断します。海外文献の皮膚用製剤や含嗽処方を、そのまま国内の標準処方として扱わないことも重要です。
感染性病変が疑われる場合は、診断を再検討したうえで治療を選択します。また、局所ステロイドを継続する患者では口腔カンジダ症に注意し、白苔や新たな粘膜症状を認めた際には再評価します。効果が乏しいからと漫然と使用期間を延ばすのではなく、病変の診断、使用方法、局所刺激の持続などを見直します。
補助的な治療には、病変を覆う保護剤や局所麻酔薬などがあります。これらは痛みや接触刺激を軽減する一方で、原疾患を治療するものとは限りません。含嗽薬も補助療法として用いられることがありますが、局所ステロイドに代わる主治療ではありません。アフタがあるという理由だけで、抗菌薬や抗ウイルス薬を一律に投与するのではなく、感染症の診断や個別の適応に基づいて判断します。
栄養補充は、欠乏の有無とその背景を踏まえて検討します。鉄、葉酸、ビタミンB12などの不足が確認された場合は補充を行い、必要に応じて食事摂取不足や吸収不良の原因も評価します。一方、欠乏が確認されていないすべての患者に高用量のサプリメントを勧めても、確実に治癒や再発予防につながるとは限りません。局所療法で制御できない重症例や、ほぼ連続して病変が出現する患者は、口腔内科・口腔外科などの専門診療につなげます。
Actas Dermo-Sifiliográficas:再発性アフタ性口内炎の診断と治療
患者への説明では、小アフタ型は通常一〜二週間で自然治癒すること、痛みを減らす治療はあるものの再発を完全に防げるとは限らないことを伝えます。食事では、熱いもの、塩辛いもの、刺激性の強い食品など、実際に痛みが増すものを一時的に避けるよう案内します。食べられる量が減っていないかも確認し、口腔清掃が疼痛で難しい場合は、局所刺激を抑えながら清潔を保つ方法を相談します。
再発予防に関する説明は、根拠の限界も含めて行います。ストレスや局所外傷は誘発要因として知られていますが、生活習慣を整えれば必ず再発しなくなるわけではありません。特定の食品や歯磨剤との関連を患者が感じている場合は、その時間的関係を確認し、個別に検討します。歯磨剤の成分変更によって治癒経過が改善した報告はありますが、すべての患者で再発回数が減ると断定することはできません。
重要なのは、再発する口内炎と、同じ潰瘍が治らずに残り続ける状態を区別することです。二週間以上持続する口腔潰瘍は、アフタと決めつけず、歯科・口腔外科などで再評価する目安になります。硬結、出血、増大、持続する赤色・白色の変化など、悪性病変を疑う所見がある場合は、二週間を待たず専門紹介を行います。必要に応じて生検を含む精査が検討されます。
参考)https://www1.racgp.org.au/ajgp/2020/september/common-benign-and-malignant-oral-mucosal-disease
RACGP:口腔粘膜疾患と遷延性潰瘍の評価
例えば、頬粘膜に数mmの浅い潰瘍が出現し、毎回十日前後で治癒する患者は、小アフタ型RASに合う経過です。一方、舌の同じ部位に潰瘍が残り続け、触れると硬さがある患者を、同じ「繰り返す口内炎」として扱うべきではありません。痛みの強弱だけでは良悪性を判断できず、口腔がんは初期に痛みが乏しいこともあります。形態、触診所見、持続期間を組み合わせて評価することが安全な診療につながります。
再発性口腔潰瘍に眼痛、羞明、視力低下などの眼症状が伴う場合は、ベーチェット病などに関連する眼病変を念頭に、速やかな眼科評価につなげます。また、強い疼痛や嚥下困難で十分に飲食できない患者は、病変の大きさだけで軽症と判断しないことが重要です。診療では局所治療の効果を確認するとともに、治癒の経過と新たな全身症状を追い、必要な診療科へ適切に連携します。
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