

「アバナ」は、一般に有効成分アバナフィルを含有する海外製の勃起不全(ED)治療薬を指して使われる名称です。アバナフィルは、海外では「STENDRA」などの製品名で流通しているホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬です。PDE5阻害薬にはシルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィルなどがあり、アバナフィルも同じ薬効群に位置付けられます。KEGGでは、アバナフィルをATCコードG04BE10のPDE5阻害薬として収載しています。
参考)KEGG DRUG: アバナフィル
一方で、医療従事者が最初に整理すべき点は、日本における承認状況です。アバナフィルを有効成分とするED治療薬は、日本で医薬品医療機器等法に基づく製造販売承認を取得していません。したがって、国内承認薬と同一の品質保証、添付文書に基づく標準的な情報提供、流通管理および市販後安全対策を前提に扱うことはできません。海外承認の有無と日本国内での承認・流通の可否は別問題であり、患者説明ではこの点を混同しないことが重要です。
参考)ステンドラ(アバナフィル)の効果・副作用やリスク、代替となる…
なお、EDは単に勃起の硬さや性交機会の問題にとどまりません。糖尿病、脂質異常症、高血圧、喫煙、肥満、睡眠障害、抑うつ、前立腺治療後の状態などが背景に関与し得ます。とりわけ血管性EDは心血管リスクの評価契機にもなり得るため、薬剤の希望だけを入口にせず、症状の経過、朝勃起の有無、性欲、服薬歴、循環器症状、精神心理的要因を包括的に確認する姿勢が求められます。
性的刺激により陰茎海綿体で一酸化窒素(NO)が放出されると、グアニル酸シクラーゼの活性化を介して環状グアノシン一リン酸(cGMP)が増加します。cGMPは平滑筋弛緩と海綿体への血流増加を促し、勃起に関与します。PDE5はcGMPを分解する酵素であり、アバナフィルはPDE5を阻害することでcGMPの分解を抑え、性的刺激に伴う勃起反応を補助します。薬剤のみで自発的な勃起を起こすものではなく、反応には性的刺激が必要です。
米国のSTENDRA添付文書情報では、開始用量は100mg、性行為のおよそ15分前から必要時に内服し、効果および忍容性に応じて200mgへ増量、または50mgへ減量するとされています。最大投与頻度は1日1回であり、食事の有無にかかわらず服用可能とされています。ただし、これは海外の承認製剤に対する海外ラベル上の情報です。国内未承認の「アバナ」製品に自己判断でその用量を当てはめたり、海外の用法を日本国内の個別患者へそのまま適用したりすることは適切ではありません。
参考)https://dailymed.nlm.nih.gov/dailymed/drugInfo.cfm?setid=fa7d93e3-b69b-4e02-8146-89760cd8e9d6
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 薬効分類 | PDE5阻害薬 | cGMP分解を抑制し、性的刺激時の勃起反応を補助する |
| 海外製剤の開始用量 | 100mgを必要時に使用 | 米国STENDRAラベルの情報であり、日本の承認用法ではない |
| 服用タイミング | 100mg・200mgは性行為約15分前、50mgは約30分前 | 海外ラベル上の目安。個別の自己調整を推奨するものではない |
| 最大頻度 | 1日1回まで | 重複投与や他のPDE5阻害薬との併用は避ける |
| 食事の影響 | 食事の有無を問わず服用可能と記載 | 飲酒量、併用薬、循環動態には別途注意が必要 |
DailyMed:STENDRA(avanafil)添付文書情報
最優先で確認すべきなのは、硝酸薬、NO供与薬および可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬の使用です。PDE5阻害薬はcGMP濃度を高めるため、硝酸薬等との併用で降圧作用が増強され、症候性低血圧、失神、虚血性イベントを含む重篤な転帰につながるおそれがあります。狭心症治療薬としてのニトログリセリン、硝酸イソソルビドだけでなく、亜硝酸アミルなどの「poppers」と呼ばれる製品の使用も確認対象です。海外ラベルでは、硝酸薬およびグアニル酸シクラーゼ刺激薬の使用者は服用しないよう明記されています。
また、アバナフィルは主にCYP3A4で代謝されます。強力なCYP3A4阻害薬との併用は、アバナフィル曝露量の上昇を通じて副作用リスクを増大させるため、海外ラベルでは使用しないこととされています。中等度のCYP3A4阻害薬を併用する場合には、海外ラベル上で24時間当たり50mgを超えない制限が示されています。さらに、α遮断薬を使用している患者では血圧低下に注意が必要であり、海外ラベルでは安定したα遮断薬治療中の患者で50mgから開始するとされています。
重度の肝機能障害、重度の腎機能障害または透析患者についても、海外の規制資料では使用を推奨しないとされています。医療従事者は、患者が「ED治療薬だから泌尿器だけの問題」と理解している場合でも、循環器・腎臓・肝臓・眼科・血液疾患を含む病歴に視野を広げる必要があります。特に、性行為を行うこと自体が不適切と判断される不安定な心血管状態では、薬剤選択以前に病態の安定化と専門科連携が優先されます。
PDE5阻害薬でみられ得る症状として、頭痛、顔面紅潮、鼻閉、消化不良、背部痛、めまいなどがあります。これらは血管拡張作用や薬理作用に関連して生じることがありますが、症状の種類、程度、発現時期、併用薬、飲酒量を確認し、単なる「よくある副作用」として一律に扱わないことが重要です。とくに浮動感、失神前症状、冷汗、胸痛、動悸などを伴う場合は、低血圧や循環器イベントの可能性を念頭に置きます。
持続勃起症は頻度が高い事象ではないものの、4時間以上勃起が持続する場合には緊急対応が必要です。放置すれば海綿体組織の虚血性障害から不可逆的な勃起機能障害につながるおそれがあります。視覚異常や急な視力低下、急な聴力低下・耳鳴り・めまい、胸痛、失神も、速やかな医療評価を要する症状として具体的に説明します。患者には、こうした症状が起きた際に自己判断で追加内服せず、救急要請または医療機関への連絡を優先するよう伝えるべきです。
また、ED治療薬使用後に胸痛が出現した場合、患者自身が硝酸薬を使用することは危険です。救急対応者や受診先の医療者に対して、アバナフィルまたはED治療薬をいつ、どの程度使用した可能性があるかを申告する必要があります。国内未承認製品では成分量やロット情報の確認が難しい場面もあるため、外箱・シート・購入記録などを保持し、受診時に提示できるよう指導することが実務的です。
アバナを検索する患者の中には、インターネット通販や海外通販による個人輸入を既に検討・実施している人が少なくありません。この局面で重要なのは、非難のみで問診を終えるのではなく、実際に服用した製品名、含量表示、購入経路、服用日時、併用薬、症状を可能な限り具体的に把握することです。羞恥心からED薬の利用を申告しないこともあるため、虚血性胸痛や低血圧、持続勃起、視聴覚症状の評価では、非判断的な聞き方で確認する必要があります。
厚生労働省は、個人輸入した医薬品による健康被害は医薬品副作用被害救済制度の対象にならないと注意喚起しています。さらに、個人輸入品では、表示どおりの有効成分・含量であるか、混入物がないか、適切な保管・流通条件が維持されていたかを国内の正規流通品と同じ水準で確認できません。したがって、「海外で承認されている成分である」ことを根拠に、入手した個別製品の品質、安全性、有効性を保証することはできません。
参考)医薬品等を海外から購入しようとされる方へ |厚生労働省
厚生労働省:医薬品等を海外から購入しようとされる方へ
医療従事者の説明では、アバナが国内未承認である事実、硝酸薬等との併用が危険であること、個人輸入品には品質確認と公的救済の限界があることを、患者の責任追及ではなく安全確保の観点から明確に伝えます。そのうえで、EDの原因評価、心血管リスクの確認、国内で承認された治療選択肢を含む適切な診療への接続を提案することが、偶発的な健康被害を減らす実践的な対応となるでしょう。