

PRAとは「plasma renin activity」の略で、日本語では血漿レニン活性といいます。高血圧診療や内分泌検査の文脈で使われる指標であり、血液中のレニンがどの程度働いているかを評価します。重要なのは、レニンという物質の濃度そのものではなく、レニンの酵素としての働きを測定している点です。
参考)血漿レニン活性(PRA)|腎・副腎皮質|内分泌学検査|WEB…
レニンは腎臓の傍糸球体装置で産生される酵素です。レニンが基質であるアンジオテンシノーゲンに作用すると、アンジオテンシンⅠが生成されます。さらに、アンジオテンシン変換酵素であるACEの作用によりアンジオテンシンⅡへと変換され、強い昇圧作用などにつながります。PRAは、この血圧調節系の入口に位置するレニンの働きを把握する検査です。
実際の測定では、血漿中のレニンとレニン基質を一定時間反応させ、生成されたアンジオテンシンⅠの量を調べます。結果は一般にng/mL/hr、またはng/mL/hで表されます。「濃度」に時間の要素が加わっているのは、単位時間あたりにどれだけアンジオテンシンⅠが生成されたかを示すためです。この測定原理上、PRAはレニンの量だけでなく、血漿中のレニン基質の増減にも影響されます。
一方、活性型レニン濃度であるARCは、活性型レニンを認識する抗体によって直接定量する指標です。PRAとARCはどちらもレニン分泌の評価に用いられますが、測定対象と原理が異なります。したがって、検査結果に「レニン」と書かれていても、PRAなのかARCなのかを確認し、数値や判定基準をそのまま置き換えないことが必要です。
LSIメディエンス:血漿レニン活性(PRA)の検査案内と臨床的意義
PRAの基準値を確認するときは、採血時の体位と測定法を先に確認します。例えば、LSIメディエンスのEIA法による検査案内では、臥位、座位、立位で異なる基準範囲が設定されています。同じ測定値でも、どの条件で採血したかによって基準範囲との関係が変わるため、「PRAの正常値は一律にこの数値」と説明するのは適切ではありません。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| PRA・臥位 | 0.2~2.3 ng/mL/hr | LSIメディエンスのEIA法における基準範囲の例 |
| PRA・座位 | 0.2~3.9 ng/mL/hr | 臥位とは別の基準範囲で評価する |
| PRA・立位 | 0.2~4.1 ng/mL/hr | 採血時の体位を記録して解釈する |
| PAC | 血漿アルドステロン濃度 | PRAと組み合わせて原発性アルドステロン症を評価する |
| ARC | 活性型レニン濃度 | PRAとは測定原理が異なり、比率の判定基準も異なる |
| ARR | アルドステロン・レニン比 | PRAを使う場合はPACをPRAで割って求める |
表中のPRA基準範囲は特定の検査機関が示した例であり、あらゆる医療機関に共通する絶対的な診断基準ではありません。実務では、検査結果票に記載された測定法、単位、基準範囲を優先して確認します。また、基準範囲から外れていることと、特定の疾患の診断条件を満たすことは別の問題です。PRAが低いという情報だけで原発性アルドステロン症を確定することはできません。
PAC、PRA、ARC、ARRは略語が似ているため、記録や申し送りの段階でも混同に注意が必要です。PACはアルドステロンの濃度、PRAはレニンの活性、ARCは活性型レニンの濃度、ARRはそれらを用いて算出する比率です。特にARRを確認する場合は、分母がPRAかARCか、PACがどの測定法・単位で報告されているかまで確認することで、判定基準の取り違えを防げます。
参考)https://www.j-endo.jp/uploads/files/news/20210823.pdf
日本内分泌学会:原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021
PRAの高値・低値は、レニン分泌やその働きが亢進しているのか、抑制されているのかを考える手掛かりです。検査案内では、PRA高値を示す疾患として腎血管性高血圧症やバーター症候群など、低値を示す疾患として原発性アルドステロン症が挙げられています。ただし、これらは鑑別の候補であり、「高値ならこの疾患」「低値ならこの疾患」と一対一に対応するわけではありません。
原発性アルドステロン症では、副腎からアルドステロンが自律的に過剰分泌され、高血圧を来します。スクリーニングでは、アルドステロンの値に対してレニンが抑制されているかを組み合わせて評価します。したがって、PRA単独の低値を探すよりも、PACとPRAを同時に確認することが診断の入口になります。
また、血清カリウム値だけに依存した拾い上げも避ける必要があります。日本内分泌学会の2021年ガイドラインでは、低カリウム血症合併例に加え、治療抵抗性高血圧、40歳未満で発症した高血圧、副腎腫瘍を合併した高血圧などを、積極的なスクリーニングの対象として挙げています。低カリウム血症の有無だけでなく、高血圧の発症年齢や治療反応性まで確認することが重要です。
PRAを用いて原発性アルドステロン症をスクリーニングする場合、PACをPRAで割ったARRを用います。日本内分泌学会「原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021」では、PACをCLEIA法で測定し、PACの単位をpg/mL、PRAの単位をng/mL/hrとした場合、ARRが200以上、かつPACが60 pg/mL以上で陽性と判定する基準を示しています。これはスクリーニングの判定基準であり、そのまま確定診断を意味するものではありません。
同ガイドラインでは、ARRが100~200の境界域にあり、PACが60 pg/mL以上の場合も暫定的に陽性とし、低カリウム血症、副腎腫瘍、年齢、患者の希望などを考慮して、その後の検査方針を個別に判断するとしています。また、PACが60 pg/mL未満でも原発性アルドステロン症を完全には否定できないと明記しています。境界域や基準未満の結果を、臨床情報から切り離して機械的に扱わないことが大切です。
ARRの読み方で注意したいのは、分母のPRAが小さいほど比率が大きくなる点です。ARRが高くても、PACそのものがどの程度なのかを必ず確認します。PRAが測定感度以下の場合、同ガイドラインは便宜的に測定感度の数値をARR計算に使用するとしています。結果票の「未満」という表記をゼロと扱って計算するのではなく、測定下限と施設の計算方法を確認してください。
ARCをPRAの代わりに用いる場合は、同じ200という基準を流用しません。2021年ガイドラインでは、PACがpg/mL、ARCがpg/mLで報告される条件で、PAC/ARCが40以上、かつPACが60 pg/mL以上という別の基準を示しています。さらに、PACは測定法によって値が異なるため、過去のRIA法による基準とCLEIA法による基準を混在させないことも必要です。
スクリーニング陽性例では偽陽性もあり得るため、通常はカプトプリル試験などの機能確認検査で、アルドステロンの自律的過剰産生を評価します。ただし、レニンが検出限界以下で、低カリウム血症と一定以上のPAC高値を伴う典型例では、機能確認検査を省略できる場合があります。PRAは診断を進めるための重要な指標ですが、単一の値だけで精査や治療を完結させる検査ではありません。
PRA測定では、採血前の状態をそろえることが結果の解釈に直結します。日本内分泌学会の2021年ガイドラインでは、早朝空腹時の安静臥位後の採血が望ましい一方、原発性アルドステロン症のスクリーニングでは随時座位で実施してよいとしています。したがって、すべての検査に一律の採血条件を要求するのではなく、検査の目的と施設の手順に従い、実際の条件を記録することが重要です。
検査機関の指定も確認してください。例えば、LSIメディエンスでは早朝空腹時に30分間安静後の採血を推奨し、臥位では30分以上横になった状態を推奨しています。検体はEDTA血漿を用い、冷却遠心、血漿分離、凍結保存が指定されています。また、溶血検体での依頼を避けるよう求めています。採血管の選択から提出までを検査前に確認し、異なる検査項目の処理方法をそのまま流用しないことが必要です。
降圧薬の影響も見逃せません。2021年ガイドラインでは、降圧薬の種類によってスクリーニングが偽陽性や偽陰性となる可能性があるため、カルシウム拮抗薬やα遮断薬へ変更後の検査を提案しています。一方で、血圧と低カリウム血症の管理を第一に優先し、適切な薬物治療下で検査を実施することも推奨しています。検査条件を整えるために安全性を犠牲にしたり、患者自身に休薬を判断させたりしない運用が重要です。
PRAは診断時だけでなく、原発性アルドステロン症の薬物治療中にも参考になります。同ガイドラインでは、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬であるMR拮抗薬の治療において、血圧と血清カリウム濃度の正常化に加え、PRA抑制の解除を目安として挙げています。ただし、PRAだけを目標に薬剤を調整するのではなく、腎機能や臓器障害を経時的に評価することが前提です。
特にMR拮抗薬の開始後早期や片側副腎摘出術後には、高カリウム血症や腎機能の変化に注意が必要です。医療従事者が結果を共有する際は、PRAの数値に加え、PAC、血清カリウム、腎機能、血圧、採血条件、内服内容をセットで整理すると、診断時と治療中の意味を区別しやすくなります。本記事で示したPAの判定値は日本内分泌学会の2021年ガイドラインに基づくため、実際の診療では採用するガイドラインと施設の測定系・運用手順を確認してください。