

LIPUSは「Low-Intensity Pulsed Ultrasound」の略で、日本語では低出力パルス超音波、または低強度パルス超音波と呼ばれます。骨折部の皮膚上にプローブを配置し、弱い超音波を断続的に照射する方法です。骨折治療における目的は骨癒合の促進であり、超音波画像を使って骨折を診断する検査とは役割が異なります。医療従事者が「lipus 医療」という情報を調べる際は、診断用超音波ではなく、骨癒合を補助する治療技術として理解することが出発点になります。
参考)https://www.nice.org.uk/guidance/htg481/resources/lowintensity-pulsed-ultrasound-to-promote-healing-of-delayedunion-and-nonunion-fractures-pdf-1809594469797829
作用機序として想定されているのは、超音波が骨折部に微小な機械的刺激を与え、骨修復に関わる生物学的反応を促すというものです。NICEの説明では、代表的な照射条件として周波数1.5MHz、パルス幅200マイクロ秒、パルス繰り返し周波数1kHz、時間平均強度30mW/cm²が示されています。ただし、これは代表的な条件であって、すべての医療機器にそのまま適用できる操作指示ではありません。実際の設定や使用方法は、採用する機器の電子添文と取扱説明書に基づいて確認します。
ここで区別したいのが、作用機序の妥当性と、患者にとって意味のある臨床効果です。骨形成を促す可能性があることだけで、復職までの日数、疼痛、再手術率、画像上の癒合期間が改善すると結論づけることはできません。LIPUSを評価するときは、基礎的な説明に加えて、対照群を置いた臨床研究でどの評価項目が改善したかを確認する必要があります。
参考)https://www.bmj.com/content/356/bmj.j576
また、LIPUSは骨折治療のすべてを担うものではありません。遷延癒合や偽関節に対するNICEの推奨でも、ほかの治療と併用し、これらの骨折を扱う専門家が管理することが求められています。したがって、医療現場では「手術や固定を置き換える機器」と説明するのではなく、標準的な治療方針を確認したうえで検討する補助療法として位置づけるのが適切です。
LIPUSの有効性を判断するうえで重要なのは、新鮮骨折、遷延癒合、偽関節をひとまとめにしないことです。新鮮骨折に対する大規模な比較試験として、2016年に公表されたTRUST試験があります。この試験は、手術を受けた成人の新鮮脛骨骨折患者501人を対象に、標準治療にLIPUSを追加した群と偽機器を使用した群を比較しました。結果として、1年の追跡で機能回復や画像上の骨癒合を改善する効果は示されませんでした。
この試験を含む2017年のシステマティックレビューも、新鮮骨折患者では、LIPUSは患者にとって重要な転帰を改善せず、画像上の骨癒合にもおそらく効果がないと結論づけています。対応するBMJの診療ガイドラインは、骨折または骨切り術を受けた患者に対して、LIPUSを使用しないことを強く推奨しました。「骨癒合を必ず早める」「早期復職につながる」といった一律の説明は、これらの研究結果と一致しません。
| 対象・評価項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 手術後の新鮮脛骨骨折 | TRUST試験では機能回復や画像上の癒合促進を認めなかった。 | 成人501人を対象とした比較試験。 |
| 新鮮骨折全般の研究評価 | 2017年のレビューは、患者に重要な転帰の改善を支持しなかった。 | ほかの骨折病態への適用可能性には議論がある。 |
| 遷延癒合・偽関節 | NICEは有効性のエビデンスの質が不十分と評価している。 | 特別な臨床管理、同意、監査または研究の枠組みを要求。 |
| 安全性 | NICEは遷延癒合・偽関節への使用について、重大な安全性の懸念はないとしている。 | 安全性の評価と有効性の証明は別問題。 |
| 治療の位置づけ | 遷延癒合・偽関節では、ほかの治療と併用して専門家が管理する。 | 単独で標準治療を代替するものではない。 |
一方、新鮮脛骨骨折の試験結果だけで、すべての遷延癒合や偽関節における効果が完全に否定されたと説明するのも正確ではありません。システマティックレビュー自体が、ほかの骨折や骨切り術への適用可能性には議論があるとしています。難治性骨折については、効果を確立済みと扱うのでも、病態を問わず無効と断定するのでもなく、比較研究の不足や不確実性を明示する必要があります。
英国NICEの2018年の遷延癒合・偽関節に関する推奨は、有効性が不確実であることを患者に説明し、明確な文書情報を提供して共同意思決定を支援するよう求めています。なお、従来のIPG623はHTG481へ移行していますが、推奨内容は変更されていません。古い資料に記載された肯定的な評価だけを引用せず、資料の発行年、対象病態、更新状況まで確認することが重要です。
BMJ:LIPUSによる骨癒合のシステマティックレビュー
NICE:遷延癒合・偽関節に対する推奨
LIPUSは、患者が骨折部の皮膚上にプローブを置き、通常は毎日20分程度使用する方法として説明されています。治療期間は数週間から数か月に及び、骨癒合の進行は一般に画像検査で評価します。ただし、「1日20分」は代表的な使用方法であり、その時間を守れば骨癒合が確実に早まるという意味ではありません。機器ごとの使用指示と、患者ごとの治療計画を分けて伝える必要があります。
医療従事者の役割は、機器を渡して終了することではなく、患者が実際に指定位置へ照射できるか、継続使用が可能か、治療経過をどのように評価するかを明確にすることです。照射位置の確認は基本的な管理事項であり、使用回数だけでは骨折部に適切に照射できているかを評価できません。骨折部への照射、継続使用、定期的な画像評価を一つの治療過程として説明することが大切です。
参考)骨折治療器は1日20分で効果がある?超音波治療の仕組みと注意…
使用を忘れた場合も、自己判断で翌日の照射時間や回数を増やすような運用は避け、機器の説明書や医療機関の指示に従います。また、皮膚状態の変化や新たな外傷、固定のずれが疑われる状況では、LIPUSの継続だけで対応しないことが重要です。患者向けの説明には、使用手順だけでなく「どのような場合に連絡するか」も含めておくと、在宅使用中の問題を把握しやすくなります。
安全性については、NICEが重大な懸念を認めていないことと、個別機器に確認事項がないことを混同してはいけません。採用機器の禁忌・禁止、併用機器に関する注意、使用対象などは、最新の電子添文で別途確認する必要があります。機器名を特定せずに「どの患者にも安全に使用できる」と説明することは避けるべきです。
国内のLIPUS関連の診療報酬では、難治性骨折を対象とする「K047-2 難治性骨折超音波治療法」と、骨折観血的手術などの後に実施する「K047-3 超音波骨折治療法」を区別する必要があります。K047-2の取扱いは「K047 難治性骨折電磁波電気治療法」と同様とされているため、K047-2の項目だけを読んで算定要件の確認を終えないことが重要です。
参考)K047-2 難治性骨折超音波治療法|e-診療報酬点数表(医…
K047-3の留意事項では、四肢、すなわち手足を含む部位の観血的手術、骨切り術または偽関節手術を実施した後に、骨折治癒期間の短縮を目的として、当該骨折から3週間以内に超音波骨折治療法を開始した場合に算定するとされています。やむを得ない理由で3週間を超えて開始した場合は、その理由を診療報酬明細書の摘要欄へ詳細に記載する取扱いです。「手術をした日から一律3週間以内」と単純に言い換えるのではなく、通知の文言に沿って確認します。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/shinryou.aspx?file=ika_2_10_1_2_2/k047-3.html
さらに、当該治療を開始してから3か月間または骨癒合するまでの間、原則として連日継続して実施する場合に、一連のものとして1回のみ所定点数を算定するとされています。算定に際しては、実施予定期間と頻度を患者へ指導し、その指導内容を摘要欄へ記載します。入院中に開始し、退院後も継続する場合でも、一連として1回のみの算定であり、毎回の照射ごとに同じ区分を繰り返し算定する仕組みではありません。
ここで注意したいのは、保険診療上の算定対象と、研究上の有効性評価は別の判断軸だということです。国内に算定区分があることをもって、すべての対象患者で臨床的な利益が証明されているとは説明できません。逆に、海外のガイドラインだけで国内の算定可否を決めることもできません。医師は臨床上の適応を、医事担当者は現行の告示・通知や疑義解釈に沿った請求要件を、それぞれ確認する必要があります。
診療報酬の点数や要件は改定の影響を受けるため、実際の請求では診療日の制度に対応した資料を参照します。院内で過去の点数表やメーカーの旧版資料を使用している場合は、更新日も確認してください。とくに難治性骨折の取扱いは参照先のK047まで確認し、病態の臨床的な説明と、保険上の要件を同じものとして処理しないことが大切です。
令和8年度:K047-2 難治性骨折超音波治療法
K047-3 超音波骨折治療法の算定上の留意事項
医療従事者がLIPUSを検討するときは、まず対象が新鮮骨折なのか、遷延癒合や偽関節なのかを整理し、どの臨床研究がその患者に近いかを考えます。例えば、手術後の新鮮脛骨骨折に対して「超音波で早く歩けるようになる」と説明することは、TRUST試験の結果から支持されません。この状況では、期待する効果の根拠を再確認し、LIPUSを当然の追加治療として提示しない姿勢が必要です。
遷延癒合や偽関節では、専門家による管理のもとで、ほかの治療との関係を明確にしながら検討します。NICEは、この領域の研究において、患者選択、骨折部位、治癒を遅らせる危険因子や併存疾患の詳細を示すよう求めています。これは、単に「骨がつきにくい」という情報だけでは、治療効果や研究結果の適用可能性を十分に判断できないことを示す視点です。
患者への説明では、「皮膚の上から使用する治療である」「一般に毎日の使用が必要である」「期待する効果には不確実性がある」「画像検査などによる経過確認が必要である」という事項をセットで伝えます。例えば、「骨癒合を補助する目的で検討する治療ですが、必ず治癒が早まると証明されているわけではありません。今の骨折の状態、ほかの治療、毎日の使用負担を踏まえて判断します」という説明なら、目的と限界を同時に示せます。
治療目標も「機器を毎日使うこと」だけに置かず、疼痛、機能回復、荷重、画像上の癒合、追加手術の必要性など、患者にとって意味のある転帰へ結びつけます。BMJのレビューとガイドラインが重視したのも、画像上の変化だけでなく、復職、全荷重、疼痛、後続手術といった評価項目です。治療前に何を改善したいのかを共有することで、機器の使用そのものが目的化することを防げます。
LIPUSの医療活用で求められるのは、作用機序への期待だけで適応を広げないことです。新鮮骨折の比較研究では利益が示されていない点、難治性骨折では有効性の不確実性が残る点を踏まえ、患者に近いエビデンス、機器固有の使用条件、国内の算定要件を別々に確認します。そのうえで患者と治療の目的や負担を共有し、専門家の管理と経過評価を組み合わせることが、根拠に基づく運用につながります。