

1型糖尿病とは、膵臓のβ細胞が破壊され、通常は絶対的なインスリン欠乏に至る糖尿病です。主に自己免疫を基礎として発症しますが、膵島関連自己抗体を証明できない病型もあります。診療では、血糖値が高いという結果だけでなく、その背景にあるインスリン欠乏の程度と進行速度を把握することが重要です。
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自己免疫性の1型糖尿病では、遺伝的素因に環境因子などが加わり、β細胞の破壊が進むと考えられています。ただし、個々の患者について発症のきっかけを特定できるとは限りません。患者説明では、食べ過ぎや運動不足だけで生じた病気と捉えないよう、成因を丁寧に説明する必要があります。
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2型糖尿病は、インスリン分泌低下を主体とするものと、インスリン抵抗性を主体として相対的なインスリン不足を伴うものなどから成ります。一方、1型糖尿病ではβ細胞破壊が病態の中心です。しかし、年齢や肥満の有無だけで両者を確実に分けることはできません。緩徐進行1型糖尿病は成人にも発症し、当初は2型糖尿病として治療されることがあります。
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また、「インスリン注射をしているから1型糖尿病」という判断も適切ではありません。糖尿病の成因分類と、生命維持のためにインスリンが必要かどうかという病態分類は別の概念です。2型糖尿病でも血糖管理のためにインスリン療法を行い、1型糖尿病でも緩徐進行例の初期にはインスリン非依存状態である場合があります。
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日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024:糖尿病診断の指針」
1型糖尿病は、成因別には自己免疫性と特発性に、発症様式別には急性発症、緩徐進行、劇症に分類されます。この二つの分類軸を混同しないことが大切です。例えば、緩徐進行1型糖尿病は膵島関連自己抗体陽性が診断の前提ですが、劇症1型糖尿病では自己抗体は原則として陰性です。
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| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 急性発症1型糖尿病 | 一般に高血糖症状の出現後、約3か月以内にケトーシスまたはケトアシドーシスに至る | 診断早期から継続したインスリン治療を必要とする。自己抗体や内因性分泌能を合わせて判定する |
| 緩徐進行1型糖尿病 | 膵島関連自己抗体が陽性で、診断時は原則としてケトーシスがなく、直ちには高血糖是正のためのインスリン療法を必要としない | 経過中のインスリン分泌低下と、インスリン依存状態への進行を確認する |
| 劇症1型糖尿病 | 高血糖症状出現後、約1週間以内にケトーシスまたはケトアシドーシスに至る | 血糖値に比べてHbA1cが比較的低い。正式な診断には血糖値・HbA1c・Cペプチドなどの基準を満たす必要がある |
| 膵島関連自己抗体 | GAD抗体、IA-2抗体、インスリン自己抗体、ZnT8抗体、膵島細胞抗体など | 陰性でも1型糖尿病を否定できない。インスリン自己抗体は治療開始前の測定かどうかに注意する |
| Cペプチド | 体内で分泌されるインスリンの量を評価する指標 | 空腹時・負荷後などの測定条件、同時血糖値、腎機能を踏まえて解釈する |
上表は発症様式と検査の要点であり、単一の所見で病型を確定するためのものではありません。急性発症例では、自己抗体が証明できなくても空腹時血清Cペプチド0.6ng/mL未満などの所見を含めて判定します。腎機能低下時にはCペプチドの排泄が遅延し、血中値が高くなるため、分泌能を過大評価しない注意が必要です。
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緩徐進行1型糖尿病の診断基準(2023)では、自己抗体陽性などの条件を満たし、糖尿病診断後3か月を過ぎてインスリン療法が必要となり、最終観察時点で空腹時血清Cペプチド0.6ng/mL未満の内因性インスリン欠乏を認める場合を「definite」とします。自己抗体陽性で、診断時に直ちにインスリンを必要としない条件までを満たす段階は「probable」であり、両者を区別して経過を追います。
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糖尿病そのものの診断と、1型という病型の診断も区別します。糖尿病型の基準は、静脈血漿で空腹時血糖126mg/dL以上、75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値200mg/dL以上、随時血糖200mg/dL以上のいずれか、またはHbA1c6.5%以上です。原則として反復確認などが必要ですが、同一採血で血糖値とHbA1cがともに糖尿病型なら1回で診断できます。HbA1cだけの反復やCGMの測定値では糖尿病を確定診断しません。急性代謝失調が疑われる際は、通常の再検査待ちにせず緊急評価を行います。
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日本糖尿病学会「緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の診断基準(2023)」
高血糖の典型的な症状は、口渇、多飲、多尿、体重減少です。1型糖尿病では、これらの症状から短期間でケトーシスや糖尿病性ケトアシドーシスへ進行する場合があります。診察時は症状の有無だけでなく、「いつから出現し、どの速さで悪化したか」を確認することが病型と緊急性の判断につながります。
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劇症1型糖尿病の診断基準には、初診時の随時血糖288mg/dL以上かつHbA1c8.7%未満という組み合わせに加え、発症の速さと著明なインスリン分泌低下が含まれます。ただし、この血糖値とHbA1cだけで劇症と診断することはできません。また、HbA1cが極端に高くないことを理由に、重篤な高血糖状態を否定してはいけません。
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ケトーシスとケトアシドーシスも同義ではありません。ケトーシスは尿ケトン体陽性や血中ケトン体上昇を認める状態であり、糖尿病性ケトアシドーシスは緊急治療を要する急性代謝失調です。疑わしい患者では、抗体結果による病型確定を待つのではなく、全身状態を評価して必要なインスリン治療と専門診療につなぐことを優先します。
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インスリン依存状態にある1型糖尿病では、インスリン補充が生命維持に不可欠です。標準的な方法は、頻回注射法または持続皮下インスリン注入療法(インスリンポンプ療法)を用いる強化インスリン療法です。血糖測定を組み合わせ、血糖値や食事に含まれる糖質量に応じて追加インスリンを調整します。
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頻回注射法では、主として持効型溶解インスリンで基礎分泌を、超速効型インスリンで食事に伴う追加分泌を補います。基礎インスリンと食事時のインスリンは役割が異なるため、患者がそれぞれの目的を理解することが安全な自己管理の土台になります。食事量が減ったときに両方を一律に中止するような理解を避ける必要があります。
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インスリンポンプは、基礎注入速度を時間帯に応じて設定し、食事時には追加インスリンを注入する治療です。CGMと組み合わせた機器には、低グルコースを予測して注入を一時停止する機能や、センサー値に応じて基礎注入・補正を自動調整する機能を備えたものがあります。ただし、ハイブリッド型のシステムでは食事時の操作などが必要であり、機器導入だけで自己管理が不要になるわけではありません。
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CGMは血液そのものではなく、間質液中のグルコース濃度を継続的に測定する仕組みです。診療ではHbA1cだけでなく、日内変動や低血糖の状況を確認する助けになります。機器の選択では、患者の生活様式、操作への理解、低血糖への対応力も踏まえて、治療を継続できる方法を検討します。
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強化インスリン療法は、網膜症、腎症、神経障害の発症予防・進行抑制に有効で、日本糖尿病学会のガイドラインでも推奨されています。一方、治療には低血糖などのリスクがあるため、血糖値を下げることだけを優先してはいけません。食事・活動・インスリンの対応関係を患者と確認し、低血糖に適切に対処できる教育を並行して行います。
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日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024:インスリンによる治療」
シックデイとは、感染症などによって発熱、下痢、嘔吐、食欲不振が生じ、食事を十分に取れないような体調不良の日を指します。食べられないため低血糖になる場合がある一方、感染に伴う炎症やインスリン拮抗ホルモンの作用で高血糖になる場合もあります。「食事をしていないから血糖は上がらない」とは限りません。
dmic.jihs.go(https://dmic.jihs.go.jp/general/about-dm/040/060/06.html)
内因性インスリン分泌が少ない患者では、インスリン注射を中断するとケトアシドーシスに至る可能性があります。持効型溶解インスリンを自己判断で中断しないことを伝え、食事時のインスリン調整とは分けて説明します。具体的な用量は血糖値、摂取量、感染の程度などで異なるため、記事中の一般論を個別の増減指示に置き換えず、事前の指示と医療機関への相談に基づいて対応します。
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患者には、水分や摂取可能な炭水化物を補い、血糖値をこまめに確認することを説明します。連絡時に必要な情報は、症状が始まった時刻、発熱・嘔吐・下痢の状況、食事と水分の摂取量、血糖値、インスリンの使用状況などです。平時から相談先と時間外の受診方法を文章で共有しておくと、体調不良時の判断を支えられます。
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糖尿病情報センターは、嘔吐・下痢が止まらない、38度以上の高熱が続く、24時間にわたり食事が全く取れないか極端に少ない、血糖350mg/dL以上が続く、意識状態に変化がある場合に、速やかな連絡または受診を勧めています。これらは「該当するまで待つ」基準ではありません。対応に迷う時点で主治医へ相談し、意識変化などの重い症状があれば緊急対応を優先します。
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併用薬にも注意が必要です。SGLT2阻害薬使用中は、著明な高血糖を伴わないケトアシドーシスが起こる場合があります。そのため、血糖値の高さだけで安全性を判断せず、症状やケトン体を含めて評価します。シックデイにおける休薬などは、処方薬ごとの事前指示を確認し、インスリンまで一緒に中止しないよう区別して説明します。
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継続診療では、血糖記録の確認に加えて注射手技や注射部位も評価します。同じ場所への注射を続けて生じる皮下硬結は、インスリン吸収を不安定にする原因になります。血糖悪化を直ちに患者の生活上の問題と決めつけず、分泌能の変化、注射部位、投与方法、体調変化を整理して治療を見直す姿勢が重要です。
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糖尿病情報センター「シックデイ」