

| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 脳卒中を疑う状況 | 突然の顔面の脱力や口角の下垂。四肢の脱力、言語障害などの併存 | 救急評価を優先する。随伴症状が乏しくても突然の発症を軽視しない。 |
| ベル麻痺 | 急性の片側顔面筋力低下。閉眼困難、流涎、味覚変化などを伴うことがある | 他の原因を検討したうえで診断し、早期の治療につなげる。 |
| ラムゼイ・ハント症候群 | 顔面神経麻痺に、強い痛み、耳・口腔周囲の発疹、難聴、耳鳴り、めまいなどを伴う | |
| 腫瘍・外傷・感染など | 顔面神経を圧迫・損傷する病変や、感染に関連した顔面筋力低下 | |
| 骨格・歯列・軟部組織の非対称 | オトガイ偏位、歯列正中のずれ、咬合平面や軟部組織の左右差 | |
| 顔面神経麻痺後の病的共同運動 | 口を動かすと眼が狭くなるなど、意図した動作に別の筋の収縮が伴う | 筋力低下だけでなく、過活動や動作の連動を評価する。 |
中枢性と末梢性の鑑別では、額のしわ寄せや閉眼の状態が参考になります。大脳からの運動指令が障害される病変では額の動きが保たれることがありますが、「額も動かないから脳卒中ではない」と断定してはいけません。橋の梗塞などでは、末梢性顔面神経麻痺に似たパターンを示すことが報告されています。額の所見は、発症様式やほかの神経症状と合わせて解釈する必要があります。
casereports.bmj(https://casereports.bmj.com/content/14/3/e238141.reprint)
BMJ Case Reports:ベル麻痺に類似した顔面麻痺を呈する橋梗塞
記録では、「右口角が低い」という位置の記述と、「右口角の挙上が乏しい」という運動の記述を混同しないようにします。また、患者が最も困っている症状を併記すると、形態の変化だけでは捉えられない治療目標を共有できます。専門的な顔面神経麻痺リハビリテーションでも、写真を含む包括的な評価を行い、回復段階に応じて個別の治療計画を立てる方法が用いられています。
pubmed.ncbi.nlm.nih(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36438936/)
Queen Victoria Hospital:顔面神経麻痺の専門的評価とリハビリテーション
顔面神経麻痺の回復後も口角左右差が残る場合は、残存する筋力低下だけでなく、筋の過活動や病的共同運動を評価します。病的共同運動とは、意図した随意運動に伴って別の部位が不随意に動く状態です。口を動かすと眼が狭くなるなどの症状は、単に「筋力が足りない」と説明するだけでは病態を捉えられません。どの動作で、どの筋が連動するかを確認して介入を選択します。
pubmed.ncbi.nlm.nih(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36438936/)
2022年の国際的な系統的レビューと臨床推奨では、顔面の病的共同運動に対する第一選択として顔面トレーニングを位置づけ、その後にボツリヌストキシン治療を検討しています。ここでのトレーニングは、バイオフィードバックなどを用いて動作を再学習するものであり、口角を力いっぱい引き上げる運動を一律に繰り返すことと同義ではありません。手術は、第一選択の治療で十分な改善が得られない個別症例に対して検討されます。
pubmed.ncbi.nlm.nih(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36438936/)
患者説明では、回復の見通しと再評価の必要性を両方伝えます。NHSはベル麻痺について、多くは6か月以内に改善する一方、より長くかかる人や症状が残る人もいると説明し、3週間たっても改善がない場合には再受診を勧めています。「必ず元通りになる」と保証するのではなく、改善の有無を確認する時期と、変化が乏しい場合の相談先を具体化することが大切です。
nhs(https://www.nhs.uk/conditions/bells-palsy/)
国際的臨床推奨:顔面の病的共同運動の診断と治療