

「アルツハイマ とは」と調べる際に、まず押さえたい正式な疾患名がアルツハイマー病です。アルツハイマー病は、脳内へのアミロイドβの蓄積、神経細胞内への異常なタウタンパク質の蓄積、神経細胞の障害や脱落を特徴とする進行性の神経変性疾患です。認知症を引き起こす代表的な原因疾患ですが、認知症という言葉そのものと同義ではありません。
ncgg.go(https://www.ncgg.go.jp/ri/report/20221107.html)
認知症は、記憶、見当識、判断などの認知機能が低下し、日常生活に支障を来している状態を指します。一方、アルツハイマー病は、その状態を生じさせる原因疾患の名称です。したがって、診療では原因疾患と生活機能を分けて評価する視点が欠かせません。「何が原因か」と「現在どの程度生活に影響しているか」は、関連していても別々に確認する必要があります。
ncgg.go(https://www.ncgg.go.jp/ri/labo/30.html)
軽度認知障害は、MCI(mild cognitive impairment)とも呼ばれ、以前と比べて認知機能が低下しているものの、日常生活の自立がおおむね保たれており、認知症には至っていない状態です。複雑な作業に以前より時間がかかる、間違いが増えるといった変化があっても、基本的には自分で生活を続けられることがあります。MCIは症状の段階を示す名称であって、原因が必ずアルツハイマー病というわけではありません。
c2h.niph.go(https://c2h.niph.go.jp/results/C2H2308/C2H2308_Background.pdf)
この区別は、新しい治療薬の説明でも重要です。「アルツハイマー病によるMCI」と「原因を問わないMCI」は同じ集団ではありません。抗アミロイドβ抗体薬の適応を検討する場合には、認知機能が軽度に低下しているという情報だけでなく、アルツハイマー病に由来することを裏付ける評価が必要になります。
c2h.niph.go(https://c2h.niph.go.jp/results/C2H2308/C2H2308_Background.pdf)
国立長寿医療研究センター:認知症って何?アルツハイマー病と違うの?
典型的なアルツハイマー病では、同じことを繰り返し質問する、同じ話を何度もする、物を置いた場所が分からなくなるといった記憶障害が目立ちます。進行に伴い、薬の管理や金銭管理などが難しくなり、さらに身の回りの動作にも支援が必要になります。医療従事者は「もの忘れがあるか」だけでなく、「以前できていた生活行為がどのように変化したか」を確認することが重要です。
dementia-japan(https://dementia-japan.org/general/about_dementia/)
一方、すべての患者が典型的なもの忘れから始まるわけではありません。厚生労働省は、比較的若年の患者では、もの忘れ以外の症状が目立つことも少なくないと説明しています。記憶症状の目立ち方だけでアルツハイマー病を除外せず、認知機能全体と生活への影響を評価する必要があります。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000089508_00003.html)
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 記憶の変化 | 同じ質問や話を繰り返す、物の置き場所が分からなくなる | 本人の訴えに加え、家族などから具体的な出来事を確認する |
| 生活機能の変化 | 服薬管理や金銭管理が以前より難しくなる | 認知機能低下が生活の自立に及ぼす影響を評価する |
| MCIの段階 | 認知機能の低下はあるが、生活の自立がおおむね保たれる | 作業時間の延長や間違いの増加がみられることがある |
| 認知症の段階 | 認知機能の低下によって日常生活に支障が生じている | 原因疾患の診断とは分けて重症度を評価する |
| 急な変化 | 急激な意識・注意の変化や、一日の中での大きな変動 | 通常の進行と決めつけず、せん妄などを鑑別する |
上表は、症状、生活機能、急性変化を分けて把握するための整理です。単一の症状から病名を決定する診断基準ではありません。特に、急に会話がかみ合わなくなった、覚醒状態が変動するなどの変化は、アルツハイマー病の進行だけで説明しないことが大切です。せん妄は認知症に似た症状を呈し、認知症に合併する場合もあるため、経過の速さと変動性を確認します。
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日本認知症学会:認知症とは?認知症をきたす主な病気
アルツハイマー病の診断では、認知機能の低下を確認する評価と、その原因を調べる評価を組み合わせます。国立長寿医療研究センターは、神経心理学的検査による記憶力や注意力の評価、CT・MRIによる脳萎縮や脳梗塞の確認、血液検査による他疾患との鑑別を挙げています。認知機能検査の結果だけでなく、生活上の変化や他の検査所見と合わせて解釈することが基本です。
ncgg.go(https://www.ncgg.go.jp/ri/lab/camd/j-depp/mci/inspection.html)
jpn-geriat-soc.or(https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_geriatrics_50_1_1.pdf)
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ncgg.go(https://www.ncgg.go.jp/ri/lab/camd/j-depp/mci/inspection.html)
c2h.niph.go(https://c2h.niph.go.jp/results/C2H2308/C2H2308_Background.pdf)
バイオマーカーとは、病態を反映する生物学的な指標です。アルツハイマー病では、アミロイドβやリン酸化タウなどが注目されており、血液中のリン酸化タウについても早期診断への応用を目指した研究が進められてきました。ただし、「病理を示唆する指標があること」と「認知症として生活に支障があること」は別の情報です。検査結果を説明するときは、病理、症状、生活機能を混同しないようにします。
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また、うつ病やせん妄など、認知症と似た症状を示す状態との鑑別も必要です。診断に迷う場合や、急性の変化が重なっている場合には、もの忘れ外来や認知症疾患医療センターなどの専門診療につなげ、原因疾患の評価と生活支援の方向性を整理します。
hsp.ncnp.go(https://hsp.ncnp.go.jp/clinical/department.php?@uid=xdj4sY9FBpXmaYa3)
国立長寿医療研究センター:認知症の検査と治療について
薬物療法を説明する際は、認知症症状に対する治療と、アルツハイマー病の病理を標的とする治療を区別すると理解しやすくなります。コリンエステラーゼ阻害薬には、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンなどがあり、記憶力や日常生活動作の低下を抑える効果が期待されます。ただし、病気を完全に治す薬ではなく、生活の安定を支える治療として位置付けます。
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病理を標的とする薬剤には、抗アミロイドβ抗体薬のレカネマブとドナネマブがあります。国内での効能・効果は、いずれも「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」です。認知症全般に用いる薬ではなく、すべての病期のアルツハイマー病を対象とするわけでもありません。説明では、「失われた認知機能を元に戻す」ことと「今後の進行を抑制する」ことを区別し、治療への期待を適切に共有します。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/files/000281059.pdf)
安全管理で特に重要なのが、アミロイド関連画像異常であるARIAです。ARIAには浮腫・滲出液貯留に関連するARIA-E、微小出血やヘモジデリン沈着に関連するARIA-Hなどが含まれます。症状がない段階でも画像評価が必要になるため、治療開始時には、定期的なMRI検査を含む診療体制について患者・家族と共有する必要があります。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/files/000281059.pdf)
2026年6月5日のPMDAによる使用上の注意の改訂では、レカネマブについて、従来の5回目・7回目・14回目の投与前、およびそれ以降の定期的なMRIに加え、3回目投与前にもMRIを実施することが望ましいとされました。特にARIAの発現に注意を要する患者では、3回目投与前のMRIの実施を考慮することが追記されています。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/files/000281059.pdf)
同日のドナネマブに関する改訂では、3回目投与前のMRIが「必要に応じて実施することが望ましい」から、「MRI検査を実施し、ARIAの有無を確認すること」へ変更されました。2回目・3回目・4回目・7回目の投与前、およびそれ以降の定期的な確認という位置付けです。両剤のMRIスケジュールを同じものとして扱わず、薬剤ごとの最新の電子添文や最適使用推進ガイドラインを確認します。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/files/000281057.pdf)
さらに両剤とも、投与期間にかかわらず、ARIAを示唆する症状が認められた場合には速やかに受診するよう、患者・家族・介護者へ指導することが重要です。医療者側も速やかに臨床評価を行い、ARIAが疑われる場合にはMRI検査を実施します。定期検査の予定があることを理由に、症状出現時の評価を先送りしないことが、安全管理の要点です。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/files/000281059.pdf)
PMDA:レカネマブの使用上の注意の改訂について(2026年6月5日)
PMDA:ドナネマブの使用上の注意の改訂について(2026年6月5日)
アルツハイマー病の診療は、薬剤を選択して終わりではありません。国立長寿医療研究センターは、適度な運動、栄養バランスのよい食事、低栄養の予防、人との交流や趣味活動などを非薬物療法として挙げています。患者が無理なく続けられる活動を取り入れ、身体機能と生活の維持を支えることが重要です。これらは薬物療法と対立するものではなく、並行して生活を支える取り組みです。
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診療現場では、認知機能の点数と同じように、生活上の困り事を具体化する必要があります。例えば服薬管理が難しくなった場合には、本人がどの段階まで自分で行えているのかを把握し、支援が必要な部分を明らかにします。アルツハイマー病では薬やお金の管理が徐々に難しくなるため、生活機能の変化を本人・家族と共有しながら支援を調整する視点が求められます。
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行動・心理症状はBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)と呼ばれ、認知症診療における重要な課題です。ただし、不穏や睡眠の乱れなどを、すべて認知症そのものの症状と判断しないことが大切です。身体疾患や環境の変化に伴ってせん妄が生じることがあり、まず病態を把握したうえで、環境調整、ケアの変更、心理的介入などを検討します。
ncgg.go(https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/letter/020.html)
環境面では、本人になじみやすい状況を整え、昼夜の生活リズムを保つことが基本です。夜間の騒音や光を抑え、昼間は本人に適した活動を取り入れるなど、日常のケアで調整できる要素があります。症状への対応を薬剤追加だけに限定せず、本人が安心して過ごせる環境や関わり方も評価します。
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多職種で情報を共有する際は、病名だけでなく、認知機能、服薬や金銭管理などの生活機能、行動・心理症状、家族が困っている場面を整理すると、支援の焦点を合わせやすくなります。専門医療機関では診断・治療やBPSDへの対応を行い、地域の医療機関との連携も進めています。専門的評価と継続的な地域支援をつなぐことが、本人と家族を支える基盤になります。
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早期受診の意義は、新しい薬の対象になるかを確認することだけではありません。治療により改善が期待できる原因を見つけ、必要な治療と支援につなげることにもあります。「年齢のせい」として見過ごさず、本人が感じている変化と周囲が気づいた生活上の変化を確認し、認知機能の維持だけでなく、その人らしい生活を続けるための診療につなげることが重要です。
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国立長寿医療研究センター:認知症の精神症状・行動異常(BPSD)と入院治療について