

SBPとは、英語の「systolic blood pressure」の略で、日本語では収縮期血圧といいます。一般に「上の血圧」と呼ばれ、心臓が収縮して血液を送り出すときの動脈内の圧力を示します。一方、DBPは「diastolic blood pressure」の略で、心臓が拡張しているときの拡張期血圧、いわゆる「下の血圧」です。血圧が「128/76 mmHg」と記載されていれば、SBPは128 mmHg、DBPは76 mmHgと読み取ります。
heart(https://www.heart.org/en/health-topics/high-blood-pressure/blood-pressure-explained)
医療従事者がSBPを確認する際は、収縮期血圧だけを切り離すのではなく、DBPと組み合わせて評価することが基本です。日本の高血圧分類では、SBPまたはDBPのいずれか一方が基準に達していても、高血圧に該当します。例えば、診察室血圧が148/78 mmHgであれば、DBPが90 mmHg未満であっても、SBPが140 mmHg以上であるため高血圧の範囲です。「下の血圧が高くないから問題ない」という説明は適切ではありません。
acpjapan(https://www.acpjapan.org/preventive-healthcare/screening/hypertension-screening/)
ただし、SBPは血圧だけに使われる略語ではありません。消化器・肝臓領域では「spontaneous bacterial peritonitis」、すなわち特発性細菌性腹膜炎を意味します。こちらは主に肝硬変に伴う腹水などで問題になる感染症であり、収縮期血圧とは全く異なる概念です。腹水検査や抗菌薬治療に関する文章でSBPが登場した場合には、病名として使われている可能性があります。
onlinelibrary.wiley(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002%2Fhep.31884)
したがって、略語を読み解くときは、直前・直後の記載を確認します。「SBP 120 mmHg」であれば血圧値ですが、「腹水好中球数」「腹水培養」「SBPの治療」といった文脈では特発性細菌性腹膜炎を検討します。記事、院内資料、診療情報提供書では、初出時に正式名称を併記すると、同じ略語による取り違えを防ぎやすくなります。本記事では収縮期血圧を中心に解説し、最後に病名としてのSBPを整理します。
米国心臓協会:血圧の意味と測定の基本
SBPを評価するうえで重要なのは、診断基準と降圧目標を混同しないことです。日本の「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、高血圧の診断基準は診察室血圧140/90 mmHg以上、家庭血圧135/85 mmHg以上で据え置かれています。これはSBPとDBPの両方が高い場合だけでなく、どちらか一方が基準以上の場合も含みます。
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| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 診察室血圧での高血圧診断基準 | SBP 140 mmHg以上、またはDBP 90 mmHg以上 | どちらか一方が基準以上でも該当 |
| 家庭血圧での高血圧診断基準 | SBP 135 mmHg以上、またはDBP 85 mmHg以上 | 診察室血圧とは異なる基準で評価 |
| 診察室血圧での原則的な降圧目標 | SBP 130 mmHg未満、かつDBP 80 mmHg未満 | 診断基準ではなく、治療時に目指す値 |
| 家庭血圧での原則的な降圧目標 | SBP 125 mmHg未満、かつDBP 75 mmHg未満 | 患者の状態に応じた個別の配慮が必要 |
上記は日本のガイドラインに基づく整理です。海外の資料では高血圧分類の境界が異なる場合があるため、論文や患者向け資料を引用するときは、どの国・学会の基準を用いているかを明記します。特に130~139 mmHgというSBPの範囲は、日本と米国の分類を無条件に置き換えないことが重要です。
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例えば、診察室血圧が136/84 mmHgの場合、日本の基準では高血圧の診断域には達していませんが、高値血圧に該当します。一方、高血圧治療中の患者では、同じ値でも原則的な降圧目標には達していないと解釈されます。このように、同じSBPでも「未治療者の分類」なのか「治療中の達成状況」なのかで説明が変わります。目標値を機械的に適用するのではなく、患者の状態に応じた配慮も必要です。
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日本高血圧学会:高血圧の10のファクト
ACP日本支部:高血圧スクリーニングと国内外の基準
SBPの評価は、測定値が信頼できることを前提とします。安静を取らずに測った血圧と、落ち着いて座った状態で測った血圧を、そのまま同じ条件の結果として比較するのは適切ではありません。日本高血圧学会の家庭血圧測定資料では、上腕血圧計を使用し、朝と晩に、排尿を済ませて椅子に座り、1~2分間安静にしてから測定する方法が示されています。
jpnsh(https://www.jpnsh.jp/data/selfmonitoring.pdf)
家庭血圧の基本条件は、患者への説明でも統一しておきます。「毎日測る」という指示だけでなく、いつ、どの姿勢で、何回測り、どの値を残すのかまで共有することで、診療時に比較しやすい記録になります。
jpnsh(https://www.jpnsh.jp/data/selfmonitoring.pdf)
jpnsh(https://www.jpnsh.jp/data/selfmonitoring.pdf)
jpnsh(https://www.jpnsh.jp/data/selfmonitoring.pdf)
jpnsh(https://www.jpnsh.jp/data/selfmonitoring.pdf)
jpnsh(https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019_gen.pdf)
jpnsh(https://www.jpnsh.jp/data/selfmonitoring.pdf)
安静時間については、参照する測定手順によって表現が異なります。日本高血圧学会の家庭血圧測定資料は1~2分間の安静を示す一方、米国心臓協会の家庭血圧測定案内では少なくとも5分間の安静を勧めています。施設の手順書や研究プロトコルを作成する場合には、異なる測定条件を混在させず、採用する方法を明確にすることが大切です。
jpnsh(https://www.jpnsh.jp/data/selfmonitoring.pdf)
また、米国心臓協会は、測定前30分以内の喫煙、カフェイン摂取、運動を避けることや、排尿を済ませることも案内しています。外来でSBPが予想より高かったときには、直ちに治療効果の不足と決めつけず、測定前の行動や測定中の会話などを確認すると、結果を解釈するための情報が得られます。
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日本高血圧学会:家庭で血圧を測定しましょう
米国心臓協会:家庭血圧測定の手順
臨床でSBPを扱う際は、「いくつだったか」だけでなく、「どこで、どのように測った値か」を確認します。日本の高血圧診断基準では、診察室のSBPは140 mmHg以上、家庭のSBPは135 mmHg以上が高血圧の範囲です。測定場所を記載せずに「SBP 138 mmHg」とだけ共有すると、受け手が診察室血圧として読むか家庭血圧として読むかによって、評価が変わり得ます。
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例えば、家庭で反復して測定した血圧の平均が138/82 mmHgであれば、DBPは85 mmHg未満でも、SBPが135 mmHg以上であるため家庭血圧の高血圧基準に該当します。これに対して、診察室での138/82 mmHgは高値血圧の範囲です。同じ数字でも判断に用いる基準が異なるため、「家庭血圧の平均」「診察室で安静後に再測定」など、値の由来を添えることが重要です。
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経過観察では、単発の最小値を記録するのではなく、一定の条件で得た複数の値を残すことが基本です。家庭血圧であれば、朝と晩を区別し、原則2回の測定値と平均を確認します。測るたびに高い値を削除してしまうと、実際の測定経過を医療者が把握できなくなります。患者には「よい数字を提出するためではなく、普段の血圧を知るための測定」であると説明すると、記録の目的が伝わりやすくなります。
jpnsh(https://www.jpnsh.jp/data/selfmonitoring.pdf)
診療録や申し送りでは、SBPとDBPを一組で示し、必要に応じて測定時刻や服薬前後などの条件を補足します。例えば「家庭血圧、朝の服薬前、座位安静後の2回平均で136/78 mmHg」と記せば、単に「SBP 136」と記すより、測定条件と評価対象が明確になります。これは家庭血圧の推奨測定条件を、記録に落とし込んだ記載例です。
jpnsh(https://www.jpnsh.jp/data/selfmonitoring.pdf)
肝臓領域でいうSBPは、特発性細菌性腹膜炎です。主に肝硬変に伴う腹水で問題となり、消化管穿孔などの外科的に治療すべき腹腔内感染源が明らかでない腹水感染を指します。腹水穿刺による検査が診断の中心で、一般に腹水中の好中球数250個/μL以上が重要な診断基準として用いられます。これは腹水中の総白血球数ではなく、好中球数の基準である点に注意します。
onlinelibrary.wiley(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002%2Fhep.31884)
腹水培養の結果だけで判断しないことも重要です。好中球数が診断域に達する場合には、培養が陰性であってもSBPとして対応が必要になることがあります。反対に、培養が陽性でも好中球数が250個/μL未満である状態は、同じ条件のSBPとして一律に扱うのではなく、症状や再検査の結果を踏まえて評価します。収縮期血圧におけるmmHgと、腹水好中球数における個/μLは、対象も単位も異なります。
onlinelibrary.wiley(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002%2Fhep.31884)
治療は抗菌薬が中心ですが、薬剤選択は感染が市中発症か院内発症か、最近の抗菌薬使用歴、重症度、耐性菌のリスクなどによって変わります。米国肝臓病学会のガイダンスに基づく資料では、市中感染での第三世代セフェム系抗菌薬と、医療関連感染や重症例でのより広域な抗菌薬を区別しており、「SBPなら常に同じ抗菌薬」と理解するのは適切ではありません。
med.emory(https://med.emory.edu/departments/medicine/_documents/hang-aasld-practice-guidance-ascites,-sbp,--hrs-va)
また、米国肝臓病学会の2021年ガイダンスでは、抗菌薬に加えて静注アルブミンを使用することが推奨され、投与量として診断初日に1.5 g/kg、3日目に1.0 g/kgが示されています。特に急性腎障害や黄疸を伴う患者では利益が期待されるとされています。ただし、この数値は専門的治療の推奨用量であり、個々の患者への投与は全身状態や施設の手順に基づいて判断します。
onlinelibrary.wiley(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002%2Fhep.31884)
医療従事者が「SBPとは」を理解する際には、まず収縮期血圧と特発性細菌性腹膜炎を区別し、そのうえで各領域の評価基準を使い分ける必要があります。血圧の説明では「収縮期血圧(SBP)」、腹水感染の説明では「特発性細菌性腹膜炎(SBP)」と正式名称を併記するだけでも、意味は明確になります。特に肝硬変患者の記録では両方のSBPが同時に登場し得るため、略語だけで情報を伝えない配慮が重要です。
米国肝臓病学会:腹水・特発性細菌性腹膜炎・肝腎症候群の診療ガイダンス

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