

3歳児の言葉を評価するときは、「何語話せるか」だけではなく、言葉を使って相手とどのように伝え合っているかを確認します。米国疾病予防管理センター(CDC)は、3歳までの言語・コミュニケーションの目安として、少なくとも2往復の会話をすること、「誰」「何」「どこ」「なぜ」に当たる質問をすること、絵の中の動作を言葉で説明すること、尋ねられると自分の名前を言うこと、話の内容が多くの場合に相手に伝わることを挙げています。
参考)Milestones by 3 Years
例えば、「今日は何をしたの」「公園に行った」「誰と行ったの」「お父さん」というやり取りは、会話の往復を観察する一例です。ただし、これは診察時にそのまま答えさせるための合否問題ではありません。子どもが慣れている遊びや絵本を利用し、質問への応答だけでなく、自分からの要求や報告、相手の発言への反応も観察すると、日常のコミュニケーションを把握しやすくなります。
臨床では、話して表現する力である表出言語と、相手の言葉や身振りを理解する力である受容言語を分けて考えることが重要です。言える言葉は少なくても、言葉だけの簡単な指示を理解し、指差しや身振りで伝えようとする子どももいます。一方、発話が多くても、質問の意味を捉えにくい、会話がかみ合わないなどの困り事があれば、理解面や対人交流を含めて評価する必要があります。
参考)https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/0b505d2e-87a3-488b-a78c-46a38fbcf38b/105c3e0b/20250722_policies_boshihoken_manuals-etc_19.pdf
さらに、診察室で話さないことと、日常生活で話せないことは同じではありません。乳幼児健診の身体診察マニュアルも、健診では緊張によって普段とは異なる様子になる可能性を示し、保護者の記録や聞き取りの重要性を説明しています。「家では誰と、どんな場面で、どのような言葉を使うか」を尋ね、短時間の診察所見だけで結論を出さない姿勢が求められます。
発達の目安は、子どもの状態を理解し、相談や評価のきっかけを得るための情報です。CDCのマイルストーンは、その年齢までに75%以上の子どもができることを示しており、標準化・妥当性検証された発達スクリーニング検査の代わりにはなりません。したがって、ある項目ができないという理由だけで疾患を診断したり、すべてできることだけを理由に保護者の懸念を否定したりする使い方は適切ではありません。
一方、国内の「改訂2版乳幼児健康診査 身体診察マニュアル」では、3歳児健診における「発話の遅れ」の判定基準として「2語文が出ない」が示されています。これは、3歳児の言語能力全体を表す基準ではなく、健診で支援の必要性を拾い上げるための所見です。「2語文が出るから言葉の問題はない」と解釈せず、理解、会話、社会性、聞こえを合わせて判断する必要があります。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 会話の往復 | 少なくとも2往復の会話をすることがCDCの3歳までの目安 | 一方的に話す量だけでなく、相手との応答を確認する。 |
| 質問・説明 | 「誰」「何」「どこ」「なぜ」に当たる質問や、絵の動作の説明 | 暗記した単語の再生だけでなく、意味のある使用を見る。 |
| 話の伝わりやすさ | 多くの場合に相手が理解できる程度に話す | すべての音を完全に発音するという意味ではない。 |
| 健診での発話の遅れ | 国内マニュアルでは「2語文が出ない」を判定基準として提示 | 2語文の有無だけで発達全体を正常・異常に分けない。 |
| 言葉の理解 | 言葉による指示や問いかけへの反応を評価 | 表出だけの遅れか、受容言語にも遅れがあるかを区別する。 |
| 聞こえ | 聞こえの問診、健診でのささやき声検査などを確認 | 懸念があれば、必要に応じて専門的な聴覚評価につなげる。 |
なお、CDCの項目は米国の発達監視のための資料であり、日本語の語彙数や文法の診断基準ではありません。国内の健診資料とは目的が異なるため、それぞれの項目を単純に置き換えず、何を観察するための指標なのかを整理して利用します。医療従事者が保護者へ説明する際も、「この年齢では必ずこの長さの文を話す」と断定するより、実際の理解や伝え合いを具体的に共有することが有用です。
こども家庭庁掲載:改訂2版乳幼児健康診査 身体診察マニュアル
3歳児の言葉に心配がある場合、「個人差がある」という説明だけで評価を先送りしないことが大切です。米国小児科学会(AAP)の保護者向け資料では、言語の遅れの背景として、難聴、ほかの領域の発達の遅れ、自閉スペクトラム症などの可能性を挙げ、懸念があれば評価を受けるよう勧めています。ただし、言葉の遅れがあることだけで、特定の疾患や障害を意味するわけではありません。