運動器とは何か?医療従事者が押さえる評価と支援

運動器とは何か?医療従事者が押さえる評価と支援

運動器の定義と構成組織、代表的な疾患、ロコモ度の判定基準を医療従事者向けに解説します。危険徴候の見極めから運動療法、多職種連携まで、移動機能と生活の自立を支えるために何を確認すべきでしょうか?

運動器の基礎知識と臨床評価・支援の核心ガイド

運動器の理解から始める評価と支援
組織と移動機能を一体で捉える

運動器は骨・関節・筋肉・神経などの総称です。局所の病変だけでなく、立つ・歩く機能も評価します。

ロコモ度と危険徴候を確認する

三つのロコモ度テストで移動機能を把握し、進行する麻痺や排尿障害などは速やかな診療につなげます。

安全な活動を生活へ組み込む

疾患や体力に応じた運動と生活環境の調整を組み合わせ、患者が大切にする日常動作の維持を支えます。


運動器とは何か:構成組織と診療で捉える範囲


運動器とは、身体運動に関わる骨、筋肉、関節、神経などの総称です。「運動」という言葉からスポーツに使う器官を連想しがちですが、対象は競技動作だけではありません。起き上がる、座る、立つ、歩くといった日常生活の動作を支える仕組み全体を指します。日本整形外科学会は、骨、軟骨、筋、靱帯、神経など、運動器を構成する組織の疾病・外傷を整形外科の対象として説明しています。
joa.or(https://www.joa.or.jp/public/about/index.html)
したがって、医療従事者が運動器を評価するときには、「どの部位に病変があるか」と「その病変によって何ができなくなっているか」を分けて把握することが重要です。例えば、膝の問題であっても、問診・診察では痛みだけでなく、関節の動く範囲、腫れ、変形、歩行への影響などを確認します。局所所見と動作の情報を組み合わせることで、患者の困難を具体的に捉えられます。
joa.or(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/knee_osteoarthritis.html)
臨床上の中心となる視点は、移動機能です。移動機能とは、立つ、歩く、走る、座るなど、身体の移動に関わる機能を意味します。運動器の障害によってこの機能が低下した状態が、ロコモティブシンドローム、略してロコモです。日本語では運動器症候群と呼ばれ、進行すると将来介護が必要になるリスクが高まります。ロコモは特定の一疾患の名称ではなく、運動器の障害が生活機能に及ぼす影響を捉える概念です。
joa.or(https://www.joa.or.jp/public/locomo/index.html)
このため、「画像で変形があるか」だけで診療の到達点を決めるのではなく、「椅子から立てるか」「屋外を歩けるか」「外出を続けられるか」まで視野に入れる必要があります。ロコモ度の判定でも、筋力や歩幅に加えて、身体の状態や生活状況を調べる質問票が用いられています。
locomo-joa(https://locomo-joa.jp/check/judge)
日本整形外科学会:よくある質問・運動器とは


運動器機能の評価:ロコモ度テストの基準と解釈

運動器の評価では、原因疾患を調べる診察と、移動機能の低下を把握する評価を区別します。ロコモ度テストは後者に位置づけられ、下肢筋力を調べる「立ち上がりテスト」、歩幅から歩行能力を調べる「2ステップテスト」、身体の状態や生活状況を調べる「ロコモ25」の三つで構成されます。検査結果だけで膝関節症や脊椎疾患などの病名を確定するものではありません。
locomo-joa(https://locomo-joa.jp/check/judge)
日本整形外科学会の公式サイトでは、各テストの結果をロコモ度1、2、3に当てはめ、該当したうちで最も移動機能低下が進行している段階を最終判定としています。三つの検査の点数を平均する方式ではありません。以下は段階別の基準です。
locomo-joa(https://locomo-joa.jp/check/judge)

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項目 基準・内容 備考
ロコモ度1 立ち上がり:どちらか一方の脚で40cmの台から立ち上がれないが、両脚で20cmの台から立ち上がれる。2ステップ値:1.1以上1.3未満。ロコモ25:7点以上16点未満。 移動機能の低下が始まっている状態。いずれかの基準への該当を確認する。
ロコモ度2 立ち上がり:両脚で20cmの台から立ち上がれないが、30cmの台から立ち上がれる。2ステップ値:0.9以上1.1未満。ロコモ25:16点以上24点未満。 移動機能の低下が進行している状態。特に痛みがある場合は整形外科専門医への受診が勧められる。
ロコモ度3 立ち上がり:両脚で30cmの台から立ち上がれない。2ステップ値:0.9未満。ロコモ25:24点以上。 移動機能の低下が進行し、社会参加に支障をきたしている状態。整形外科専門医による診療が勧められる。

2ステップ値は、できる限り大股で進んだ2歩分の距離を身長で割って求めます。距離と身長の単位をそろえることが必要です。測定ではバランスを崩した試行を採用せず、2回実施したうち良い記録を用います。歩幅には下肢筋力、バランス能力、柔軟性などが関係するため、値の低下を単に「脚の筋力不足」と読み替えないことも大切です。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/content/000656490.pdf)
また、機能が低下した高齢者の身体活動では、転倒への配慮が求められます。評価の数値を得ることよりも安全を優先し、立位や歩行の安定性に不安がある患者では、実施方法や介助の必要性を検討します。ロコモ度が高い場合は、運動指導だけで対応を完結させず、背景にある運動器疾患の診療につなげることが重要です。
locomo-joa(https://locomo-joa.jp/check/judge)
日本整形外科学会公式ロコモONLINE:ロコモ度判定方法


代表的な運動器疾患と見逃してはいけない危険徴候

運動器の診療では、同じ「痛い」「歩きにくい」という訴えでも、原因と対応が異なります。代表例である変形性膝関節症では、初期に立ち上がりや歩き始めの痛みがみられ、進行すると階段昇降などが難しくなり、さらに安静時痛や変形、歩行困難が生じることがあります。診察では圧痛、関節可動域、腫れ、下肢の変形などを確認し、X線検査などを組み合わせて判断します。
joa.or(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/knee_osteoarthritis.html)
一方、骨粗鬆症は、骨量の減少などによって骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気です。骨粗鬆症自体には通常痛みがなく、軽微な転倒などをきっかけに骨折して初めて問題が明らかになる場合があります。脊椎、手首、太ももの付け根などが代表的な骨折部位であり、「痛みがないから運動器に問題はない」とは判断できません。背中が丸くなった、身長が縮んだという変化も確認すべき情報です。
joa.or(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/osteoporosis.html)
腰痛については、日常的に多い症状だからこそ、自己管理や運動指導より先に受診につなげるべき徴候を押さえる必要があります。日本整形外科学会は、次のような症状を伴う場合、放置せず速やかに整形外科を受診するよう案内しています。
joa.or(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/lumbago.html)

  • 安静にしていても痛みが軽くならない、または痛みがしだいに悪化している。
  • joa.or(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/lumbago.html)

  • 腰痛とともに発熱がみられる。
  • joa.or(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/lumbago.html)

  • 下肢のしびれや、力が入りにくい症状を伴う。
  • joa.or(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/lumbago.html)

  • 尿漏れなど、排尿に関わる異常を伴う。
  • joa.or(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/lumbago.html)

危険徴候は、それだけで特定の重篤疾患を確定するものではありません。しかし、通常の運動器痛として扱い続けてよいかを見直す手がかりになります。腰痛診療ガイドライン2019では、がんやステロイド治療の既往、体重減少、発熱、広範囲の神経症状などを危険信号として挙げ、複数の危険信号がある場合は特に注意して問診・診察するよう示しています。運動を勧める前に、全身状態と神経症状を確認する順序が重要です。
minds.jcqhc.or(https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00498.pdf)
日本整形外科学会:腰痛の症状と受診の目安


運動器を守る運動療法:活動量の目安と個別化

運動器機能の維持では、「歩数を増やす」だけでなく、筋力、バランス、柔軟性などを組み合わせて考えます。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」高齢者版は、個人差を踏まえて強度や量を調整し、可能なものから取り組むことを基本にしています。一般的な推奨値を、疾患や身体機能低下のある患者にそのまま一律処方しないことが出発点です。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/content/001195868.pdf)
同ガイドは、高齢者に対して3メッツ以上の身体活動を週15メッツ・時以上行うことを推奨しています。メッツは活動強度の指標で、安静座位を1メッツとし、通常の歩行はおおむね3メッツに相当します。具体的な目安は、歩行または同等以上の強度の身体活動を1日40分以上行うことです。1日約6,000歩という換算は、この40分の歩行に加え、家事などの低強度の生活活動も含めた一日の合計として示されています。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/content/001195868.pdf)
したがって、「40分歩けば必ず6,000歩になる」と説明するのは正確ではありません。また、6,000歩に到達しない活動が無意味ということでもありません。推奨値に満たなくても少しでも身体活動を行うことが勧められています。現在の活動量が少ない患者には、達成しにくい目標だけを提示するのではなく、日常生活の中で増やせる活動を具体的に探すことが大切です。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/content/001195868.pdf)
運動内容では、筋力・バランス・柔軟性などの多要素な運動を週3日以上、筋力トレーニングを週2~3日行うことが推奨されています。筋力トレーニングは多要素な運動に含めてもよく、別々に実施日を足し合わせる必要はありません。有酸素運動だけに偏らず、複数の身体機能に働きかける構成を考えます。
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ただし、整形外科的な障害、転倒、持病の悪化などのリスクがある高齢者では、年齢や健康状態に応じた適量の見極めが必要です。立位が難しい患者も含め、座りっぱなし、じっとしたままの時間を長くしすぎないことが推奨されています。歩行が十分にできない場合にも、「歩けないから何もしない」という二者択一にせず、安全に可能な活動を検討します。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/content/001195868.pdf)
厚生労働省:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023・高齢者版


日常診療と多職種連携:検査結果を生活の支援へつなげる

運動器への支援は、病変への対応と生活機能の維持を切り離さずに進めることが重要です。例えば、腰痛で日常生活が制限されると、体力や腰を支える筋力が低下し、精神面にも影響して、さらに腰痛が起こりやすくなることがあります。痛みの評価に加え、活動がどの程度減ったのか、生活のどの場面が難しくなったのかを把握する視点が求められます。
joa.or(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/lumbago.html)
そのための実務上の整理方法として、診療情報を「原因疾患」「症状」「移動機能」「生活への影響」の四つに分けて共有すると、支援の目的を明確にしやすくなります。例えば「膝が痛い」という情報に加え、立ち上がりの可否、階段の困難、外出機会の減少を記録するという考え方です。これは、変形性膝関節症の症状評価と、ロコモが重視する移動機能・社会参加の評価をつなぐ整理です。
joa.or(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/knee_osteoarthritis.html)
多職種で支援を計画する際には、単に「運動を継続する」と記載するだけでなく、患者が困っている動作と、実行可能な活動を共有します。診療で確認すべき病態や危険徴候、運動時の安全性、日常生活で確保できる活動機会を同じ方向で検討することが重要です。ロコモ度2、3では背景疾患の診療が勧められており、評価結果を運動の宿題だけに置き換えない姿勢が求められます。
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再評価では、ロコモ度の数値に加えて、患者の生活がどう変化したかを確認します。屋内での移動が安定したか、外出を再開できたかなど、移動機能と社会参加を結び付けて捉えます。厚生労働省のガイドも、外出や社会参加を身体活動を増やす機会として位置づけています。運動の実施回数だけでなく、生活の中で活動を続けられる状態を目指すことが大切です。
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患者への説明でも、運動器を「年齢とともに悪くなる部位」とだけ伝えるのではなく、疾患の診療、体力に合った運動、日常生活での活動を組み合わせて支える対象として説明します。年齢や画像所見だけで可能性を決めず、現在の機能と安全性を確認しながら、本人が大切にする生活動作を支援の目標に置くことが、運動器診療を生活の自立へつなげる基本となります。
joa.or(https://www.joa.or.jp/public/locomo/index.html)




病気がみえる vol.11 運動器・整形外科 第2版