妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針を解説

妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針を解説

妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針について、改定の背景、10項目の内容、体重増加の目安、葉酸摂取と食品の安全性を解説します。医療従事者は妊娠前から産後までの栄養支援にどう活用すればよいのでしょうか?

妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針の基礎知識と核心ガイド

妊娠前から産後までを支える食生活
妊娠前から食事の土台を整える

主食・主菜・副菜を組み合わせ、妊娠前から栄養不足を防ぎます。妊娠後だけでなく継続的な支援が重要です。

体重と葉酸は個別に確認する

妊娠前の体格に応じて体重増加を評価します。葉酸は食事とサプリメントの役割を分けて説明します。

安全な食事と周囲の支援をつなぐ

食品の安全性や禁煙・禁酒も確認します。家族や地域と連携し、産後まで続けられる食環境を整えます。


指針の位置づけと2021年改定で重視された視点


「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」は、妊娠前から妊娠期、授乳期までの望ましい食生活と生活習慣を示した指針です。厚生労働省が2006年に策定した「妊産婦のための食生活指針」を2021年3月に改定し、妊娠前からの健康づくりを名称にも明示しました。栄養素の摂取だけでなく、身体活動、禁煙・禁酒、周囲の支援まで含めている点が特徴です。
cfa.go(https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/a29a9bee-4d29-482d-a63b-5f9cb8ea0aa2/aaaf2a82/20230401_policies_boshihoken_shokuji_02.pdf)
改定の背景には、若い女性のやせや欠食、エネルギー・栄養素の摂取不足などの課題があります。解説要領では、妊娠前から妊娠期の栄養状態が胎児の発育に関わること、妊娠後に食行動を大きく変えることは必ずしも容易ではないことが示されています。したがって、妊娠判明後の指導だけで完結させず、妊娠を考える段階から食習慣を確認することが重要です。
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医療従事者が押さえたい中心概念は、個別化です。指針はすべての妊産婦に同じ献立や摂取量を課すものではありません。妊娠前の体格、食事内容、妊娠経過、授乳状況、生活環境を踏まえて、実行できる改善につなげるための枠組みとして活用します。体重増加についても、数値を厳格に守らせるのではなく、個人差を考慮した緩やかな指導が求められています。
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また、食生活指針と「日本人の食事摂取基準」は役割が異なります。前者は食べ方や生活支援の方向性を示し、後者はエネルギー・栄養素摂取量を検討する基準です。2021年の解説要領には2020年版の食事摂取基準が掲載されているため、現在の栄養指導では2025年版の記載も確認し、過去の表をそのまま最新の基準として転用しない姿勢が必要です。
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こども家庭庁掲載「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」解説要領


10項目の内容と妊娠前のBMIに応じた体重増加

指針は、食事の量と質、妊娠に伴う身体の変化、生活環境を一体的に捉える10項目で構成されています。患者説明では、栄養素の名前を並べるだけでなく、「どの料理を組み合わせるか」「誰が食事を準備するか」といった日常の行動に置き換えると、指針の内容を具体化できます。
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項目 基準・内容 備考
1.妊娠前の食生活 妊娠前から、バランスのよい食事をしっかりとる 妊娠前からの食習慣の形成を重視する
2.主食 「主食」を中心に、エネルギーをしっかりとる ごはん、パン、麺などを活用する
3.副菜 不足しがちなビタミン・ミネラルを「副菜」でとる 野菜などを使った料理を組み合わせる
4.主菜 「主菜」を組み合わせてたんぱく質を十分にとる 肉、魚、卵、大豆製品などに偏りなく取り入れる
5.カルシウム 乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などで十分にとる 複数の供給源を組み合わせる
6.体重増加 母子にとって望ましい量を目指す 妊娠前の体格と個人差を考慮する
7.授乳期の食生活 母乳育児もバランスのよい食生活のなかで行う 母体の栄養状態と授乳状況に配慮する
8.身体活動 無理なくからだを動かす 妊娠経過や体調に合わせる
9.たばことお酒 たばことお酒の害から赤ちゃんを守る 本人だけでなく周囲の協力も求める
10.周囲の支援 母子のからだと心のゆとりを支える 家族や地域の支援につなげる

上表は指針の10項目を要約したものです。なかでも体重管理では、妊娠中の体重増加を一律に抑える考え方を避けます。増加不足は早産やSGA、すなわち在胎週数に比べて小さい児のリスクと関連し、増加過剰はLGA、すなわち在胎週数に比べて大きい児などのリスクと関連します。単に「増えたかどうか」ではなく、妊娠前の体格と経過を併せて評価する必要があります。
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妊娠前の体格 BMI 妊娠中の体重増加指導の目安
低体重・やせ 18.5未満 12~15kg
普通体重 18.5以上25.0未満 10~13kg
肥満1度 25.0以上30.0未満 7~10kg
肥満2度以上 30.0以上 個別対応。上限5kgまでが目安

この表は、2021年の指針に掲載された日本産科婦人科学会の目安で、単胎妊娠を対象としています。BMIは妊娠前の体重kgを身長mの2乗で割って算出します。多胎妊娠にはそのまま適用せず、BMI30.0以上の「上限5kg」も、自己判断で減量や厳しい食事制限を行う指示として説明してはいけません。
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さらに、体重の急増には浮腫が関係する場合もあります。健診では体重だけを切り離して評価せず、妊娠経過を踏まえて医師が判断することが前提です。数値から外れたことを責めるのではなく、食事の量やバランスを一緒に振り返るという指針の姿勢を共有します。
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主食・主菜・副菜を土台に葉酸と栄養不足へ対応する

食事指導の出発点は、主食・主菜・副菜がそろっているかを確認することです。主食は主にエネルギー、主菜は主にたんぱく質、副菜は主にビタミン・ミネラル・食物繊維の供給源になります。指針では、これらがそろった食事を1日2回以上とることを実践の目安として示し、牛乳・乳製品や果物も適切に組み合わせるよう勧めています。
nibn.go(https://www.nibn.go.jp/eiken/ninsanpu/point.html)
例えば、パンや麺だけで食事を済ませる習慣がある場合には、主食を減らすことより、主菜や副菜を足す視点が役立ちます。一度に十分な量を食べにくい場合には、補食としておにぎりを取り入れるなど、食事全体でエネルギーを確保する工夫が指針に示されています。ただし、個別の疾患がある人への食事療法は、一般的な食生活の助言と区別して扱います。
nibn.go(https://www.nibn.go.jp/eiken/ninsanpu/point.html)
葉酸は、妊娠前から説明する必要性が特に高い栄養素です。神経管は受胎後およそ28日という早い時期に形成されるため、妊娠に気づいてからの対応だけでは重要な時期に間に合わないことがあります。妊娠を計画している女性や妊娠の可能性がある女性には、通常の食事に加えて、サプリメントや葉酸を強化した食品から葉酸400μg/日を摂取することが推奨されています。2025年版の食事摂取基準の策定ポイントでも、この付加的な摂取が示されています。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001734207.pdf)

  • 葉酸は、野菜などから摂る食事性葉酸と、サプリメント・強化食品から摂る葉酸を区別して説明する。両者は生体利用率が異なり、「野菜だけで400μgを上乗せすれば同じ」とは扱わない。
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  • 葉酸の摂取は神経管閉鎖障害の発症リスクを低減するための対策であり、すべての発症を防ぐものではないと伝える。
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  • サプリメントを利用していても、主食・主菜・副菜をそろえる必要はなくならない。多種類の製品を併用するときは、同じ栄養素の重複摂取に注意する。
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  • 鉄は妊娠に伴って需要が増えるため、肉、魚、大豆製品、野菜などを組み合わせる。副菜だけで補おうとせず、食事全体の構成を確認する。
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  • カルシウムは、妊娠期・授乳期の付加量が設定されていないことを「不足していてもよい」と読み替えない。乳製品、小魚、豆類、緑黄色野菜などから継続的に摂る。
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患者への説明では、「葉酸を飲んでいるか」という確認だけで終えず、使用している製品の表示と1日量を一緒に確認する方法が考えられます。サプリメントは摂取量が多いほどよいわけではありません。食事からの栄養確保と、特定の目的で用いる補助的な摂取を分けて説明することが、過不足を防ぐための基本になります。
nibn.go(https://www.nibn.go.jp/eiken/ninsanpu/point.html)
国立健康・栄養研究所「食生活の10のポイント」
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)の策定ポイント」


食品の安全性と禁煙・禁酒を過度な制限なく伝える

妊娠中の食品安全指導では、「食べないもの」を増やすだけの説明にならないよう注意します。指針は多様な主菜の活用を勧める一方、レバーなどに含まれるビタミンAの過剰摂取、一部の魚介類に含まれる水銀、加熱しない食品に関連するリステリア菌への注意を示しています。栄養上の利点と具体的な危険性を分けて説明することが重要です。
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レバーは鉄を含む食品ですが、ビタミンAも多く含みます。妊娠を計画している人や妊娠3か月以内の人には、大量摂取を避けるよう伝えます。鉄を補いたいという目的だけで、レバーを毎日の定番として勧めるのは適切ではありません。また、この注意を野菜全般の摂取制限に広げず、どの食品に関する注意なのかを具体的に示します。
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魚介類については、魚を一律に避ける指導ではなく、水銀に注意が必要な魚種と摂取量を確認する考え方が基本です。魚はたんぱく質に加え、種類によってDHAやEPAなどを摂れる食品でもあります。「魚は危険」という大まかな説明では、必要な食品まで避けることにつながるため、個々の魚種の扱いは公的な注意事項に沿って案内します。
nibn.go(https://www.nibn.go.jp/eiken/ninsanpu/point.html)
リステリア菌については、生ハム、スモークサーモン、肉・魚のパテ、加熱していないナチュラルチーズなどが注意の対象として挙げられています。妊娠中は感染しやすく、胎児に影響する場合があるため、十分な加熱などの予防を説明します。「乳製品はすべて避ける」といった広すぎる禁止ではなく、食品の種類と加熱の有無を確認することが大切です。
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妊娠中は禁煙・禁酒が原則です。飲酒については、胎児への影響を避けられる安全な量や時期、酒の種類による安全域はないと考えられています。また、受動喫煙も問題となるため、本人の行動だけを指導対象にせず、家族や同居者にも協力を求めます。禁煙・禁酒が難しい場合には、本人を責めるのではなく、専門の医療機関への相談につなげます。
nibn.go(https://www.nibn.go.jp/eiken/ninsanpu/point.html)


授乳期まで続く栄養支援と多職種連携の実践

食生活の支援は、出産をもって終了するものではありません。授乳期もエネルギーや複数の栄養素の必要量が増える一方、育児によって食事の準備や食べる時間の確保が難しくなる場合があります。指針では、授乳中もバランスよく十分に食べることを勧めています。産後の支援では、母親自身の食事が後回しになっていないかを確認する視点が必要です。
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母乳育児のために特定の食品を大量に食べたり、子どものアレルギー疾患予防を目的に母親が特定の食品を極端に避けたりする必要はありません。指針の解説要領では、こうした過剰摂取や除去の予防効果は示されていないとされています。ただし、母親本人に食物アレルギーや治療上の制限がある場合の対応とは区別して説明します。
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授乳方法についても、一つの方法を強制しない姿勢が重要です。解説要領は、母乳で育てたい人への支援を重視する一方、必要に応じた育児用ミルクの使用など柔軟な対応と、母親の選択や心の状態への配慮を求めています。食生活指導が母乳育児の成否を評価する場にならないよう、母子双方の状況を踏まえて支援します。
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また、指針には身体活動と心のゆとりを支える項目があります。妊娠中に新しく運動を始める場合は医師・医療機関に相談し、体調に合わせて無理なく行います。食事についても、本人に調理努力だけを求めるのではなく、家族による買い物や調理の分担、宅配サービスやミールキットの活用など、負担を減らす方法を検討します。
nibn.go(https://www.nibn.go.jp/eiken/ninsanpu/point.html)
医療現場での運用例としては、初回面談で妊娠前の体格と食事内容を把握し、健診では体重の推移と実際に食べられている内容を振り返り、産後には食事の確保と支援者の有無を再確認する流れが考えられます。これは指針に一律の手順として規定されたものではなく、継続的な支援を診療や保健指導に組み込むための実践例です。栄養面は管理栄養士、妊娠・授乳の相談は医師や助産師、地域生活の支援は保健師などと共有し、課題を一人の担当者だけで抱え込まない体制につなげます。
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「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」が目指すのは、妊産婦に完璧な食事を求めることではありません。妊娠前からの食習慣、妊娠に伴う身体の変化、産後の生活負担をつなげて捉え、必要な栄養を無理なく確保できる環境を整えることです。医療従事者は、指針の10項目を説明資料として用いるだけでなく、本人の困りごとと利用できる支援を見つけるための確認軸として活用することが求められます。
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