

疥癬(かいせん)は、ヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei var. hominis)がヒトの皮膚角層に寄生して起こる感染症です。虫体や糞、脱皮殻などに対するアレルギー反応によって、かゆみや皮疹が生じます。「疥癬病気」というキーワードで原因を調べる際に押さえたいのは、単なる湿疹でも、一般的な室内のダニによる虫刺されでもないという点です。原因となるヒゼンダニを駆除する治療が必要です。
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雌成虫は角層内を掘り進みながら産卵し、その道筋が疥癬トンネルとして観察されます。卵は通常3~5日で孵化し、約10~14日の生活環を経て成虫になります。ヒゼンダニは吸血性のダニではありません。この生活環と、治療薬の殺卵効果を期待できないことが、一定の間隔を置いて治療を繰り返す理由になります。
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主な感染経路は、肌と肌の直接接触です。通常疥癬では、同じ寝具で寝る、長時間手をつなぐなどの濃厚な接触が問題になります。医療・介護現場では、身体接触を伴うケアの内容と時間を確認する必要があります。一方、短時間触れただけで必ず感染するわけではなく、通常疥癬と角化型疥癬を区別せずに感染リスクを説明することは適切ではありません。
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感染から症状出現までは、一般に約1~2カ月の潜伏期間があります。高齢者ではさらに長くなる場合があり、症状が始まった直前の接触だけを調べても感染機会を把握できないことがあります。問診では、同居家族のかゆみ、施設利用歴、入院・転院歴、同じ病棟やユニットでの発症状況まで確認します。
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日本皮膚科学会「疥癬診療ガイドライン(第3版)」
疥癬は、大きく通常疥癬と角化型疥癬に分類されます。同じヒゼンダニによる病気でも、寄生数や皮膚所見、感染の広がり方は大きく異なります。とくに角化型疥癬は多数のヒゼンダニが存在し、施設内の集団感染の発端になり得るため、病型の評価が初期対応を左右します。
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| 項目 | 通常疥癬 | 角化型疥癬 |
|---|---|---|
| 主な皮膚所見 | 疥癬トンネル、紅斑性丘疹、結節など | 厚い角質増殖、痂皮、鱗屑、爪の肥厚など |
| かゆみ | 一般に強く、夜間に増悪することがある | 強さは一定せず、かゆみがない場合もある |
| ヒゼンダニの寄生数 | 一般に少ないが、宿主の状態で増えることがある | 極めて多く、感染力が非常に強い |
| 主な感染の広がり方 | 濃厚な皮膚接触が中心 | 直接接触に加え、落屑やリネンなどを介して広がる |
| 診療・ケア上の重点 | 特徴的皮疹の探索と接触状況の評価 | 迅速な専門診療と厳重な接触感染対策 |
表の比較は、日本皮膚科学会の診療ガイドラインに基づきます。通常疥癬でも免疫低下などにより寄生数が増えることがあるため、「通常型なら感染対策は不要」とは判断できません。
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通常疥癬では、指間、指の側面、手関節屈側、手掌などの疥癬トンネルが重要な所見です。体幹や腋窩、大腿内側などにはかゆい丘疹が散在し、男性の外陰部などには結節がみられます。成人では通常、頭部や顔面に皮疹を認めませんが、小児や高齢者には例外があり、年齢によって診察範囲を調整します。
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また、かゆみの強さは感染力の指標にはなりません。角化型疥癬にはかゆみを欠く例があり、本人の訴えが乏しくても皮膚・爪の観察が必要です。疑わしい角化性病変を認めた場合は、早期に皮膚科と感染対策担当者へ相談します。
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疥癬の診断は、臨床症状、ヒゼンダニを検出する検査、接触機会を含む疫学的情報の三つを組み合わせて行います。顕微鏡検査やダーモスコピー検査でヒゼンダニを確認できれば確定診断につながりますが、通常疥癬では寄生数が少なく、一度の検査で検出できないことがあります。
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ダーモスコピーでは、疥癬トンネルの先端にあるヒゼンダニの一部を黒褐色の三角形などとして捉え、検体採取の位置決めにも利用できます。一方、体幹のかゆい丘疹はアレルギー反応によるものが多く、そこから虫体を検出できるとは限りません。「最もかゆい場所」だけを採取するのではなく、特徴的な皮疹を探索することが検査精度の改善につながります。
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血液検査で好酸球増多やIgE高値を認めることはありますが、一定した所見ではなく、それだけで疥癬を確定することはできません。第3版追補では、検査陰性でも、集団発生があり接触機会が濃厚で、臨床症状が典型的な場合などには治療を開始することがあるとしています。検査結果だけで判断を完結させず、皮膚科医が全体像を評価することが必要です。
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国内の疥癬診療で中心となる治療薬は、フェノトリン外用とイベルメクチン内服です。日本皮膚科学会の第3版および追補では、体重15kg以上の患者に対して両薬剤が推奨度Aとされています。薬剤の選択は病型だけでなく、年齢、体重、妊娠・授乳、合併症、服薬や全身塗布の実施可能性を考慮して決めます。以下はガイドライン上の基本であり、実際の処方では最新の電子添文も照合します。
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フェノトリン5%ローションは、通常、成人では1回30gを頸部以下の皮膚に塗布し、12時間以上経過した後に入浴やシャワーなどで洗い流します。1週間隔で少なくとも2回の塗布を行うのが基本です。皮疹がある場所だけでなく、皮疹のない部位も含めて塗布する必要があり、介助が必要な患者では、誰がどの部位を塗るかまで具体的に確認します。眼や粘膜、潰瘍・びらん面への使用は避けます。
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イベルメクチンは、体重15kg未満の小児や妊婦では安全性が確立していません。また、高齢者や肝機能障害のある患者では、合併症や併用薬を含めた評価が必要です。追補では、再投与時に倦怠感や発熱などの肝機能異常を疑う徴候を確認し、必要に応じて肝機能検査を行うとしています。小児、妊婦、授乳婦の治療は、一般成人の処方を機械的に適用せず専門医が判断します。
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治療後も、虫体成分などに対するアレルギー反応でかゆみや結節が残ることがあります。重要なのは、疥癬後瘙痒と感染の持続を区別することです。かゆみだけを根拠に抗疥癬薬を追加せず、新しい疥癬トンネルの出現、検査所見、塗り残しや服薬状況、未治療の接触者からの再感染を評価します。保湿や抗ヒスタミン薬などの対症療法は、残存感染や薬剤による皮膚炎も考慮して選択します。
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病院や介護施設で疥癬が疑われたら、診断・治療と並行して病型を評価し、感染対策担当者と情報を共有します。通常疥癬では濃厚な皮膚接触の機会を把握することが中心ですが、角化型疥癬では短時間の接触や落屑・リネンを介した感染まで考慮する必要があります。すべての患者に同じ対策を当てはめず、感染リスクに応じて対応範囲を決めます。
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接触者の把握では、家族や同室者だけでなく、清拭、更衣、入浴介助などを行った職員の接触状況も確認します。日本皮膚科学会の第3版では、同一病棟やユニットなどで2カ月以内に2人以上の患者が発生した場合を、通常、集団発生として扱う目安を示しています。ただし、角化型疥癬が疑われる場合は、患者が増えるのを待たずに対策を開始する必要があります。
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角化型疥癬では、個室管理を含む接触感染対策を施設手順に沿って実施し、直接ケア時の手袋や防護衣の使用、汚染リネンと落屑の適切な取り扱いを徹底します。環境対応は、皮膚から剥がれた角質に多数のヒゼンダニが含まれ得ることを前提に計画します。一方、通常疥癬に対して角化型と同じ規模の環境対策を一律に実施するのではなく、病型と接触状況から必要性を判断します。
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リネンなどの熱処理では、ヒゼンダニが50℃で10分間の加熱により死滅するという知見が参考になります。ただし、物品の材質や設備条件を確認し、実際に必要な温度と時間を満たす手順を選びます。環境処理だけでは患者や接触者の未治療を補えないため、治療計画と物品管理を並行させることが重要です。
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実験医学 2021年2月 Vol.39 No.3 治療の概念が変わる かゆみのサイエンス〜その理解から皮膚炎の悪循環を断ち切れ