

光トポグラフィーは、近赤外分光法であるNIRS(near-infrared spectroscopy)を利用し、主に大脳皮質の活動に伴う血行動態の変化を評価する検査です。精神科領域では、言葉を挙げる課題などを実施している間の前頭部の反応を測定し、抑うつ症状の背景にある疾患の鑑別に役立つ補助情報を得ます。最も重要な位置づけは、鑑別診断補助であり、検査単独でうつ病、双極性障害、統合失調症を確定するものではありません。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
測定の基本は、近赤外光が生体内を散乱しながら進み、その一部がヘモグロビンに吸収される性質を利用することです。頭皮上に光を入射するプローブと検出するプローブを設置し、戻ってきた光の変化から酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビン、両者を合わせた総ヘモグロビンの相対的変化を推定します。日常的な説明では「脳血流を測る検査」と表現されますが、直接測定しているのは血流速度や絶対的な脳血流量ではなく、ヘモグロビン濃度変化に関連する光学的な信号です。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
神経活動と、それに伴う局所の血行動態の変化との関係を利用しているため、神経細胞の電気活動そのものを記録する検査とも異なります。また、通常の測定では光が組織内を通った正確な距離を決定できず、信号には光路長の影響が含まれます。そのため、波形の振幅を見て「この患者の脳活動は別の患者の半分である」といった厳密な個人間比較を行うことは適切ではありません。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
主な評価対象は脳表に近い大脳皮質であり、脳深部の活動を同じように測定できるわけではありません。一方、座位で発話しながら測定でき、自然な状態に比較的近い条件で機能的反応を観察できる点は利点です。したがって、光トポグラフィーは脳全体の病変を探す検査ではなく、測定部位と課題条件を限定した脳機能評価として理解する必要があります。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
精神神経学雑誌:「抑うつ状態の鑑別診断補助」としての光トポグラフィー検査
精神科領域の光トポグラフィーは、2009年に先進医療として承認され、2014年4月から抑うつ症状の鑑別診断補助として保険適用となりました。現在の臨床的位置づけを説明する際には、歴史的な「先進医療」という名称と、保険診療としての実施を混同しないことが重要です。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
保険診療上は、抑うつ症状がある人すべてを対象に、うつ病の有無を調べる一般的なスクリーニング検査ではありません。うつ病として治療を受けているものの、治療抵抗性や症状の特徴などから、双極性障害または統合失調症との鑑別が必要な場合が対象となります。対象患者、器質的疾患の除外、使用機器、結果を用いる医師、実施施設などの要件を確認する必要があります。
clinicalsup(https://clinicalsup.jp/jpoc/shinryou.aspx?file=ika_2_3_3_4/d236-2.html)
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 対象となる症状 | 抑うつ症状を有していること | 無症状者の一般的な健診とは異なる |
| 診療上の必要性 | うつ病として治療中で、双極性障害または統合失調症との鑑別が必要であること | 治療抵抗性や他疾患を疑う症状などを踏まえる |
| 器質的疾患の除外 | 当該医療機関内に配置された神経内科医または脳神経外科医による除外 | 光トポグラフィー自体が器質的疾患を除外するわけではない |
| 使用機器 | 承認または認証を受け、10チャンネル以上で脳血液量変化を計測できる医療機器 | 一般的な研究用・消費者向け機器と区別する |
| 結果の利用 | 当該医療機関内の精神保健指定医が鑑別診断の補助に使用する | 所定の施設基準への適合と届出も必要 |
| 再算定 | 症状変化などで再度の鑑別が必要となり、前回から1年以上経過した場合に1回に限り算定可能 | 毎年の定期検査を一律に認める規定ではない |
上表は診療報酬区分D236−2の公開情報に示された要件の要点です。必要理由や、再検査に該当する場合の前回実施日など、診療報酬明細書への記載事項も定められています。実際の請求では、実施時点の告示・通知と施設の届出状況を確認し、患者への費用説明では検査単体の負担と診察などを含む総額を区別することが大切です。
clinicalsup(https://clinicalsup.jp/jpoc/shinryou.aspx?file=ika_2_3_3_4/d236-2.html)
なお、光トポグラフィーには脳外科手術の術前検査としての保険上の区分もあります。言語優位半球の同定などを目的とする区分と、抑うつ症状の鑑別診断補助の区分では適応や算定条件が異なります。「光トポグラフィー」という検査名だけで判断せず、実施目的を明確にして運用する必要があります。
clinicalsup(https://clinicalsup.jp/jpoc/shinryou.aspx?file=ika_2_3_3_4/d236-2.html)
今日の臨床サポート:D236−2 光トポグラフィーの算定要件
抑うつ症状の鑑別診断補助では、頭部に多チャンネルのプローブを装着し、言語流暢性課題に対する反応を記録する方法が用いられます。代表的な手順は、課題前に「あいうえお」を30秒間反復し、続いて指定された頭文字から始まる言葉を60秒間挙げ、課題後に再び「あいうえお」を70秒間反復するものです。60秒の課題では、20秒ごとに頭文字を切り替える方法が採用されています。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
課題前後に発声を続けるのは、単に「話していること」と、言葉を検索して回答することによる反応をできるだけ区別するためです。ただし、この手順は代表例であり、すべての装置や施設における実施細目が完全に同一という意味ではありません。測定手順と解析方法を施設内で統一し、用いる判定法の前提と一致させることが重要です。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
患者から「検査は何分で終わるか」と尋ねられた場合には、課題そのものの時間と来院後の検査全体の所要時間を分けて説明します。代表的な課題の記録区間は30秒、60秒、70秒ですが、実際には装着、信号確認、説明などの時間も必要です。国府台病院の案内では検査全体を1時間程度としていますが、所要時間は施設の運用によって異なります。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
光を用いる非侵襲的な検査であることは特徴ですが、「負担が小さいこと」と「結果が必ず明確に出ること」は別です。患者説明では、検査中に行うことだけでなく、測定条件によって評価が難しい場合もあると伝え、過度な期待を避ける必要があります。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
判読では、酸素化ヘモグロビンの変化量だけでなく、反応の立ち上がり、ピークの時期、課題終了後の推移などを評価します。疾患群の研究では、うつ病では全体の賦活が小さい、双極性障害では反応が遅れてピークが後方にずれる、統合失調症では課題後の反応が相対的に大きいといった特徴が報告されています。ただし、これらは群としての傾向であり、個人の波形から病名を一対一に決める規則ではありません。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
精度の数字を紹介するときには、何と何を比較した研究かを明示する必要があります。精神神経学雑誌の2015年の総説で紹介された多施設研究では、前頭部平均波形の重心値を用いた基準によって、うつ病群の74.6%、双極性障害・統合失調症を合わせた群の85.5%を正しく分類できたとされています。これは「三つの疾患を、それぞれ同じ精度で診断できた」という結果ではありません。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
この解析の最終対象は、うつ病74名、双極性障害45名、統合失調症66名の計185名でした。対象者は臨床診断がなされ、一定の条件を満たした患者であり、測定がうまくできなかったデータなどは除外されています。診断そのものが難しい患者をそのまま代表する集団ではないため、研究で示された分類率を、目の前の患者の診断確率として読み替えることはできません。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
技術的な限界として、信号には頭皮血流など脳以外に由来する成分が含まれます。加えて、光路長の個人差、体動、プローブの接触、服薬などを考慮する必要があります。波形が平坦であったり複数のピークを示したりする場合には、重心値など一つの数値だけでは特徴を適切に表せないこともあります。自動解析の表示だけでなく、元の波形や測定状況を確認する姿勢が欠かせません。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
さらに、前頭部の反応が乏しいことは、そのまま現在の抑うつ症状の重さや治療失敗を意味しません。症状が寛解していても前頭部の賦活低下を認めた報告などがあり、症状の変化と測定値が常に並行するとは限らないためです。したがって、単独の結果から治療効果、復職の可否、今後の経過まで断定することは避け、検査の目的を超えた解釈をしないことが重要です。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
光トポグラフィーの臨床的な役割は、問診や経過観察を置き換えることではなく、鑑別診断を再検討するための補助資料を加えることです。うつ病として治療している患者で、検査結果が双極性障害や統合失調症の可能性を示唆した場合も、直ちに病名を変更するのではなく、症状、病歴、これまでの経過に照らして再評価するという関係になります。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
患者への説明では、例えば「言葉を考える課題の間に、前頭部の血液の状態がどう変化するかを調べます。結果は診断を考える参考になりますが、この検査だけで病名が決まるわけではありません」と伝えると、測定内容と診断上の役割を区別できます。東邦大学医療センター大森病院も、得られる情報は補助的なもので、精神疾患の有無を確定したり、診断名を裏付けたりするものではないと説明しています。
lab.toho-u.ac(https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/seiri_kino/inspection/neuro/topography.html)
結果が患者の予想と異なった場合には、検査を否定するか、問診を否定するかという二者択一にしないことが大切です。測定条件や波形の品質を見直し、臨床情報と整合する部分・しない部分を整理します。同様に、明確な疾患パターンが示されなかった場合でも、精神疾患を否定できるとは限りません。検査単独で疾患の有無を確定できないという限界は、どちらの方向にも適用されます。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
医療者間で検査結果を共有する際には、判定名だけでなく、実施目的、課題の遂行状況、測定上の問題、解釈の限界を合わせて伝えることが有用です。紹介元への報告でも、「検査で確定した病名」と誤解される表現ではなく、どの鑑別を検討する補助情報となったのかを示すほうが、この検査の本来の位置づけに沿っています。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
光トポグラフィーの価値は、目に見える波形を得ること自体ではなく、その情報を適切な対象者の診療に組み込み、患者とともに診断や治療の理解を深める点にあります。非侵襲性と実施のしやすさを生かしながらも、測定対象、研究の条件、保険診療上の要件を区別し、病歴と現症を中心とした臨床判断の中で活用することが求められます。
journal.jspn.or(https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=117&year=2015&mag=0&number=2&start=79)
東邦大学医療センター大森病院:光トポグラフィー検査の方法と位置づけ